明日への英気

「おお、じゃあ結構できてるんだな」


 俺はすぐ側にあるクルルの頭に、焼いただけで味付けしていない肉を差し出して言った。

 クルルは「クルルルルルルル」と鳴いた後、口先で摘まむようにそれを食べる。

 傍らではディアナから同じように肉を貰ったルーシーががっついていた。だいぶ大きくなったなぁ……。

 手すりのところにとまったハヤテも誰に貰ったのか(それとも自分で引っ掴んでいったのか)肉をついばんでいる。


 暖かくなってきたし、オリハルコンの作業もだいぶ目鼻がついてきたので、今はテラスで夕食をとっている。

 まだ完成ではないので宴とまではいかないし、普段もちょこちょこテラスで食事をしてるから、違うところと言ったらいつもより料理がほんの僅か豪華であることくらいだが。


 このところオリハルコンにかかりきりだったので、普通のナイフだのの様子を聞いてみたところ、思ったより多い数がディアナから返ってきたのである。


「みんな慣れてきましたからね」


 そう言ってフンと力こぶを作ってみせるリディ。

 力強さとか勇猛さよりも、可愛らしさの方が勝っているなぁと思ってしまったが、なんとか堪えていると、ヘレンがボソリと、


「アレで可愛いのはズルいなぁ」


 と呟き、俺たちは頷いた。リディは顔を赤らめて俯いてしまった。

 ヘレンが同じようにすると、うちの中では最も鍛えられている彼女である。男性ボディビルダーのようにとはいかない(あのレベルだと普段から二の腕がリディの腰と同じくらいの太さになってしまう)が、ガッチリした筋肉がその存在を誇示している。


「おおー」


 と感心したのはリケである。彼女も全体的にガッシリした体格ではあるのだが、身長はどうしようもないからなぁ。


「エイゾウは?」

「え? 俺?」


 焼いた肉を頬張るのに忙しかったはずのサーミャが言った。家族の目が俺に集中する。

 リディとヘレンのを見ておいて、リクエスト(?)があるのにやらないわけにもいかないか。

 俺も2人と同じように腕に力をこめた。前の世界だと30歳くらいのときにこうはならなかった記憶があるが、鍛冶と戦闘、そして生産のチートを貰っている身体である。単純な筋力も増強されていて、その分は幾分見映えもする力こぶができる。


「なかなかじゃん」

「そりゃ毎日使ってるからな」


 水汲みで重量物を運搬し、その後は毎日鎚を振るっているのである。チート含みで得たものの維持と向上は充分にできていると思う。

 うーん、前の世界でもこれくらい健康体ならもう少し色々……いや、なんだかんだ仕事が忙しくて無理で、維持できずに結局大して違わない結果になっていたか。


「ああ、それはともかくだ」


 俺は腕を下ろした。そうそう、今は力こぶが立派とかそういう話ではないのだった。


「俺が入って追加で作る日が1日か2日か取れるとは思うんだが、それはいらないか?」


 俺とリケ、2人とも欠いた状態で作れるのは通常のものだけである。合間に見せて貰った限りではそれで売るなら問題のない品質であることは、俺も太鼓判をおせる。

 今回は高級モデル、つまり彼女達で作るには若干荷が重いほうは少なくてもいいので、通常のものの数をガンガンに増やし、カミロにはそれで良しとして貰うのだ。


 一番売れ筋なのはこの通常のものらしいし、たびたび在庫が無くなることがあるそうなので、そうしたところでカミロも文句は言うまい。


「全然大丈夫」


 と、そうディアナが請け合ってくれた。


「だから、エイゾウとリケはオリハルコンに集中して。時間がもし余るようなら高級な方を作ってくれると助かるかも」

「そうか、分かった」


 であれば、オリハルコンのナイフの本体が出来た後、鞘だのに凝る時間が多少は取れそうだな。

 そんなことを考えていると、両頬をペロリとやられ、その後に頭にトスンと重みが加わる。


「はいはい、今あげるからな」


 こうして俺は娘達に肉を分けてやりながら、逆に明日も頑張ろうという気力を貰うのだった。

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