食事

 部屋はいらない、とマリベルさんは言った。普段はクルルやルーシー、ハヤテと一緒のところに居るつもりだそうだ。


「ボクは暖かくなれるしね」


 最初は多少かしこまった話し方だったのに、どんどんくだけた話し方になってきている。慣れ方が急速だが困る話でもないな。

 本格的に「寝る」ときはあのなんちゃって神棚に引っ込んだりできるらしい。いよいよ神様っぽい。

 もしかすると、あの女神像もなにか寄与してしまったのではなかろうか。いや、深く考えるのはよそう。


「じゃあ、寒くなったら頼もうかな」

「任せて!」


 ぐっと力こぶを作るマリベルさん……いや、マリベル。あまり便利使いも心苦しいが、お姉ちゃんとして妹たちの面倒を少しばかり見てもらうことにしよう。


「おっと、こんな時間か」


 ふと外を見ると日が傾きつつある。皆の手を止めてしまったし、少しでも戻って貰うか。俺はその間、晩飯の準備だ。


「おっ、じゃあボクもクルルちゃんとルーシーちゃん、ハヤテちゃんにも挨拶してこようかな」


 俺が準備でしばらく離れる旨を伝えると、マリベルはそう言った。サーミャのほうを見ると小さく頷いた。とりあえずは皆に任せれば大丈夫そうだ。

 ――もしもの場合はリディとヘレンに頼むことになるが、そっちの可能性はなるべく考えないでおきたい。

 俺は嫌な考えを振り払おうと頭を振って、台所に向かう。


「あっ」


 家への扉を開けたとき、俺はハタと気がついた。かまどに火を入れるのにマリベルの手を借りるのを忘れていた。


「まぁ、いいか」


 俺が着火の魔法を使えなくなったわけでもないし、かまども魔法対応ですぐに火が着く優れものだ。

 頭を掻き掻き、俺は扉を閉めた。


 夕食はいつも通りの無発酵パンにスープ、塩漬け肉を焼いたものである。マリベルにはワンプレートっぽく、一枚の皿に小さく盛り付けたものを出した。

 マリベルはむんずと焼いた肉を掴むと、口に運んだ。


「おいしい!」

「そうか。口に合ったんなら何よりだ」


 精霊だから食料は実はいらないらしいのだが、食べ物を口にすることは出来るし味も分かるらしい。消化はしないで体内で燃焼しきるとかだろうか。女性の身体の話だし、詮索はよしておくか。

 勢いよく食べる様を、家族のみんなが微笑ましく見ている。精神年齢的には娘の中でも最年長だろうが、ここに来た順番で言えば末の娘だ。

 唐突にできた家族ではあるが、お人形さんのような姿の(熱くない炎を身に纏っているが)少女がパクパクと食事を口に運んではニッコリと微笑む様は単純に愛らしい。

 愛らしい……のだが……。


「うーん、やっぱり専用の食器を作るか」


 今日のところは皿に盛り付け、手掴みでモリモリやってもらっているが、やはり行儀はよろしくない。ジゼルさん達妖精族のこともあるし、早めに小さな食器も作っていくことにしよう。

 礼儀作法は幸いと言って良いのかは分からないが、伯爵家令嬢と皇女殿下がいるから、バッチリ教えることが出来る。教えるのは俺じゃないけども。

 公式の場に出ることはあまりないだろうが、これまでの間にそういうことを学ぶ機会がなかったのなら、「今回」の思い出になるように覚えて貰うのも悪い話ではないだろう。勿論、マリベルに聞いた上でだが。

 同じことを思っていたのか、ディアナと目が合って、お互いに頷きあう。

 娘3人に加えて、新しい「娘」にも何をしてやれるだろうか。そんなちょっとした幸せな考えを、スプーンにすくったスープと一緒に俺は呑み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る