試射

 クロスボウに使う矢は普通の矢とは違うものを使う。違う、とは言っても矢じりがあり、軸があり、安定して飛翔させるための矢羽根もついている。違いは太さだろうか。

 弓に使うものは細い、といって良いものだが、クロスボウ用のものはそれよりやや太い。

 それがどういう効果を生むものかインストールにもないし、前の世界で的に向けてですら射たこともないので、詳しいところはよく分からないが、より重い物をより速く投射できれば運動エネルギーがその分大きくなることだけは分かる。

 まぁ、逆に言えば、それ以上のことは全く分からないってことだが。


「よし、出来た」


 俺は普段サーミャが作っている矢(矢じりは俺が作っているが、矢羽根の調整なんかはサーミャが自分でしている)を思い起こしながら、やや太めの矢を作った。

 理屈は分かっていなくとも、チートのおかげでうまく出来上がった。……多分。


「リケ」

「なんでしょう?」

「それが一段落したら、ちょっと試してみよう」


 鎚を振るっていたリケに、太矢を軽く掲げて声をかけると、やはりと言うか目を輝かせる。


「はい!」


 リケが2本ほど短剣を仕上げている間に、俺も太矢をいくつか作り足した。


 俺とリケは外に出た。太陽はとっくに天辺を過ぎている。暑い鍛冶場から、すっかり寒さが増してきた外に出ると、むしろ少し気持ちが良い。

 前の世界であんまりサウナに好んでは入らなかったが、こうしてみるともう少し入ってても良かったかなと思えてくる。

 こっちでも作れないこともない。温泉はあるし、石もそこらから集めてくることはできる(水をかけたりするので、どんな石でもいいわけではないらしい)が、まぁ、作るとしても相当後だろうな……。


 それはさておいて、俺は手にした少し厚めの鉄板を、いつもサーミャやリディが弓の練習をするのに使っている的にくくりつけた。

 太矢の矢じりも、この鉄板も魔力をふんだんに篭めてある。練習用として、少しでも長持ちしてくれればと思ってのことだが、矛盾の故事そのままの状況になってしまっていることに気がついて、くくりつけながら俺は苦笑する。

 的の向こうは少し開けていて、逸れたときに不意に誰かが現れて当たってしまったりしないようになっている。

 あれはあれで、前の世界の銃の射撃場よろしく盛り土でもすべきかも知れないな。温泉周りの時の残土がまだ幾分あるし。


「それじゃ、自分で装填してみてくれるか?」

「はい!」


 あぶみに脚を置くと、リケは道具を使って弦を引っ張り上げる準備をした。もしリケで厳しければ、てこの原理を使って弦を引く道具か、歯車で引く道具でも作るつもりをしている。


「よっ」


 リケは一息に弦を引っ張り上げた。そのまま留め金に弦を引っかける。これでまず弦を張るのは完了だ。

 続いて俺が差し出した太矢を、銃床に彫られた溝に置いたあと、手前に滑らせて弦が固定されている部分ギリギリに矢の後端が来るようにした。

 そして、そのまま床尾を肩に当てた。前の世界ならスコープであるとか、ダットサイトを搭載するのだろうが、当然この世界にそんなものはない。

 ライフルのアイアンサイト的なものもないので、照準は弓のようにつけることになる。


 リケがレバーを握りこむ。「カン!」と音がして、矢が放たれる。空中に線を引くように矢は飛んでいき、的に当たって「バキャン!!」と派手な音と火花をあげ、ポトリと落ちた。

 少なくとも矛は盾を貫けなかったということだ。


 的に近づいてみると、矢が当たったところがかなり凹んでいた。こっちはこっちで無傷ではなかったか。

 矢を拾い上げてみると、先端がグシャリと潰れている。

 これまた前の世界で、鉄板を銃で撃って貫通しなかった、という動画を見たことがあるが、鉄板も矢もちょうどそんな感じである。


 これをもって銃並みに威力があるとは言えない。今回は的を外さないよう、リケの腕前も考えてかなり近距離から放っているからだ。しかし、それでも武器としては十分だろう。


「盾を構えていても、貫通してそのまま刺さりそうです」


 リケが鉄板の衝突跡を撫でながら言った。俺は頷く。あの鉄板は魔力で補強されていた。それならば貫通を防げる、ということは裏を返せば普通の鉄板では貫通を防げない、と言うことだ。


「いずれドラゴンもこれで倒せるかなぁ」

「いけるんじゃないでしょうか」


 俺は冗談のつもりで言ったのだが、本気の空気を含ませて返してきたリケの言葉に、俺は少しだけ苦笑するのだった。

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