クロスボウのからくり
クロスボウの機構は、物凄く乱暴に言ってしまうと、張った弓の弦につっかえ棒を立てておき、それを取り外せば矢が放たれる、というものである。
とは言え、本当にそのままの機構ではうまくいかないので、もう少し凝った機構にしないといけないが。
実際に組み込む機構は、中心を固定した円盤の一部が凹字に欠けていて、そこに張った弦を引っかける。勿論そのままでは弦のテンションで円盤がくるりと回ってしまい、すぐに矢が放たれてしまう。
なので凹字の反対側に切り欠きを作り、回転を抑えるように別の部品を組み合わせ、その部品が動くと抑えられていた回転が弦のテンションで行われ、同時に切り欠きに引っかかっていた弦が解放されて矢が放たれる、という仕組みにする。
動く部品、というのが銃にも存在する引き金に当たる部分だ。逆鈎と連動して固定された撃鉄を解放するあたりもよく似ている。
引き金は引いた後、元の位置に復帰させなければいけない。単純には引張コイルばねあたりを使うのだろうが、今回はUの字にした板バネにする。
前の世界では火縄銃についていて、形状から松葉金や毛抜き金、あるいは弾き金と呼ばれるのと似たようなものである。
実用的なコイルばねは今のこの世界からいうともう少し先の技術になるからだ。前の世界ではあの大天才、レオナルド・ダ・ビンチがスケッチに残しているというから、同様の天才が現れればその時間は早まるだろう。
だが、俺がダ・ビンチになるつもりはあんまりない。元になる技術はかなり昔から存在していた――それこそ弓もある意味そうと言える――板バネの応用でのサスペンションがギリギリのラインだと考えている。
それで言えば、渦巻バネの一形態であるゼンマイもギリギリOKかもと思っているのだが、今のところ、こちらは使う場面がないので、出番はしばらく来ないだろう。
ゼンマイ動力を使ってやりたいことって、ルーシーのおもちゃくらいしか思いつかないしな……。
そして、引き金は細いのがにゅっとした、引き金と聞いて思い浮かべる形状ではなく、レバー型のものにした。
いわゆる機関部と言われるものの部品をコツコツと作っていく。チートのおかげでスムーズに作業は進む。剣や刀のような製品そのものでなくとも、助けを得られるのは心強い。
まぁ、剣も刀も1人で作るには部品を作る必要があるので、“もののついで”として手助けしてくれているのかも知れないが。
鎚で叩くだけでなく、時折タガネで切り落としたりといった作業を終えたら、それぞれを組み合わせる。軸の代わりに釘、固定先はただの木の板だ。とりあえず動作を確認するだけならこれでも問題なかろう。
「試すんですか?」
「ああ。見るか?」
「もちろん!」
様子を窺っていたらしいリケが勢いよく答える。クルルたちがいたら何事かと様子を見に来たであろうことは間違いない。
円盤には凹字の切り欠きがあり、切り欠きが上を向いている。反対側はΓの形に切り欠かれ、そこにはまるように引き金となるレバーの先端が回転を抑えていた。
レバー先端の下にはヘアピン状の板バネが敷かれていて、テンションでレバー先端を上に押し上げ、後端は軸を中心に押し下げられている。
俺は円盤の凹字に指をかけて、前にテンションをかける。せっかくなので、レバーの操作はリケにやってもらうことにした。
「いいんですか?」
「動きを見るだけだし、問題ないよ。やってくれ」
「わかりました。では」
恐る恐る、リケがレバー後端を押し上げた。レバー先端が下がり、板バネを圧縮する。
先端が円盤から外れると、抑えられていた回転がくるんと始まり、凹字の切り欠きが前を向いた。これが弓の弦であれば、この時点で解放され矢が放たれることになる。
下がったレバー先端の上には、円盤の一部が乗っかるように少しだけ入り込む。
俺は円盤にかけていた指を離し、リケを促してレバーから手を離して貰うと、板バネのテンションでレバー先端が上昇し、何の力もかかっていなかった円盤はレバー先端に押されて、凹字の切り欠きが上になるように回転する。
すると、円盤とレバー先端は再び噛み合い、固定された。これで最初の状態に戻ったことになる。
実際にクロスボウとして運用する場合は、この後もう一度弓の弦を切り欠きに入るように張り、矢(専用の太矢だ)をつがえて、発射準備完了ということになる。
「うまくいってますね」
「うん、あとは実際に組んでみてちゃんと動いてくれるかだな」
こうやって試したときはうまくいっていても、実際に組んでみるとあれやこれやでうまくいかない、なんてことは普通にありえる話だからな。
前の世界でも開発中はうまくいっていたのに、いざ本番になると思った動作にならなくて難儀したことは1度や2度ではない。
俺はそうなりませんように、と祈りながら、仮に組んだ機構を本番に移すべく、取り外していった。
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