暖房器具
あまり前の世界由来の、文化して時代が進んだものを取り入れるのはどうかなと思ったが、ものとしては至極単純だし、技術的にも大したものではない。
前の世界でも原型のようなものが生まれたのは紀元前と聞くし、サスペンションのように「放っておいても遅かれ早かれ同じか似たものが出てくる」と思って良さそうだ。
「こう、ドラ……寸胴の筒の中で火を焚いて、その熱で暖まるのはどうだろう。煙は鋼の管で外に出るようにすれば、ある程度までならそこからも熱が得られるはずだ」
要は薪ストーブである。つくりとしては実に簡素だ。要は火を焚く部分と、煙を外に出す煙突だけが主要なパーツだし。うちには木炭がたくさんあるし、木もそれこそ売るほどある。
家が木造なので、火の粉が散りにくいようにするとか、火を焚く箇所は床から離しておくとかは必要だろうが、必要なのはそれくらいだ。
「解体移動できるようにすれば、使わない季節は倉庫に放り込んでおけばいいし」
「いいじゃん」
俺の説明にサーミャが乗って、皆が頷いた。
「じゃあ、ちょっとずつそれを作るってことでいいかな。今日はいつものとおりの仕事ってことで」
俺がそう言うと、皆から了承の声が返ってきた。とりあえずは今日の仕事を頑張るとするか。
その日の夕食後、話はストーブのことになった。
リディが淹れてくれた湯気の立つ茶を飲みながら、ヘレンが言った。
「それって北方のやつなのか?」
「いや?」
「じゃあ、エイゾウの発明か。荷車のあれみたいな」
「うん? うーん。まぁ……そうだな……」
俺は少し首をひねりつつ肯定する。それを見て、サーミャが怪訝な顔をした。本当の話ではないからな。当たり前だが前の世界で薪ストーブを開発したのは俺ではない。きちんとした薪ストーブを開発したのはアメリカの何とかさんという人だ。
だが、この世界で最初に作り出すのは俺だ。で、あればこの世界では俺が発明したのと大きな違いはない。
このあと普通に完成してしまえば、サスペンションと同じく世界的には今出現しても良い技術ということになる。大きなIFは存在しない、というのがウォッチドッグの説明だった。
その理屈で言えば好き勝手してもダメなら止まるんではないか、とも思えるが、止められる過程で何が発生するか分かったものではない以上、試すようなまねは最低限に留めておいたほうがいいだろう。
「それはともかく、納品物が揃う目処もついてきたなぁ」
「早速作ります?」
リケがワクワクを隠さず、身を乗り出すようにして聞いてきた。
「うーん、色々あったし羽根を伸ばしたいのもあるけど、いずれ作らなきゃいけないもので、今は大量発注も無いことだし、手が空いてるうちに片付けちまうか」
そう答えると、リケは手を叩いて賛同を示した。他の皆もリケのように賛同とまではいかないが、特に反対する意見も無いようなので、次はストーブを作ることにした。
とは言え、温泉の湯殿を建築したときのような大掛かりなことにはならないだろう。せいぜい煙突を突き出す穴を開けたり、それを塞ぐ仕組みを作ったりで、品物はあっという間にできそうである。
なので問題になるとしたら、ストーブそのものというよりは、
「いくつ作ってどこに置くかだなぁ」
俺たちのいる居間はある程度暖かい、だが十分に暖められるかと言うと若干怪しい面もある。となれば、ここには1つ必要だろう。
あとは各人の居室をどうするかだ。
「別に1部屋に1つでも良いんだけどな」
寒さへの耐性は個々人によって違ってくる。サーミャはある程度寒さに強いが、リケはそうではない。
温度を調節できるようにするなら1部屋に1つ置いて火の管理も個人に任せる、としたほうが良いようには思う。
この場合の問題は当然作る数がそれなりにあることだ。客間もあるしなぁ……。
「2~3部屋に1つにしておいて、寒がりの部屋にストーブを置くようにするか。あと俺の部屋」
俺の部屋は特権ではなく、客間にはストーブを置かずに煙突経由で熱を送り込むためである。そのほうが安全だろうし。
こうして、どの部屋に設置して、煙突をどう回すかなんかをああだこうだと言い合っているとき、ふとリディが切り出した。
「そういえば、北方の暖房ってどんなのがあるんです?」
「北方の暖房か……。カレンさんとこがどうか知らんが、こう、小さなテーブルに布団をかけて、その中に小さな火鉢をいれたやつとかかね」
言うまでもなくコタツである。一度足を入れれば二度と出てこられなくなる悪魔の暖房器具だ。
「それは作らないんですか?」
「うーん、こもったところで炭を使うからな……事故が起きるほうが怖いかな……」
電気のヒーターや温泉熱の床下暖房的なものならまだしも、火の場合は少し用心したいところだ。
前の世界で婆さんから聞いた話だが、豆炭あんかを利用したコタツを使っていて、知らず入った動物が中で……という事故もあったらしい。
うちの場合だとルーシーがそうなりかねない、ということを前の世界の話をぼやかしながら皆に話すと、
「それはうちにはなしね!!」
ディアナがそう高らかに宣言して、俺達は笑いながらもしっかりと同意するのだった。
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