それとは別に

 暖房器具についてはある程度の目処がついた。作るのもそんなに手間はかからないだろう。見映えはともかく、ってことにはなりそうだが。


「ああ、あと……」


 いくつか、俺には作っておきたいものがあった。


「最近リケが弓の練習をしてるよな?」

「ええ」


 俺が言うと、リケは頷く。手先の器用さが弓の腕にどれくらい影響するものかは俺にもわからないが、サーミャやリディに褒められているところを見かけるので、なかなかの命中精度を誇っているようだ。


「それはそれでいいとして、クロスボウも作っておいたほうがいいかなと思ってな」


 前の世界では「キリスト教徒には使用禁止」とまでされた武器である。まぁアレは「死んじゃったら身代金取れないでしょ」という意味も多分に含まれていたわけだが。

 それはさておき、連発性に欠けるが威力の高いクロスボウをいくつか作っておくはダメな話ではないだろう。

 リケは筋力がある。弓でも強めの弦が引けるし、普段の鍛冶仕事を見ている限りでは背筋も結構あるようで、アレなら腰で弦を引っ張り上げる方式のクロスボウでも、かなりの強さの弦を引くことが出来るはずだ。


「弓は弓で連射も出来るし有用だけど、今後“何か”と対峙することも考えると、あって損はないと思うんだ」


 邪鬼のときみたいな魔物討伐ではもちろん、万が一ここに立て籠もる事態が発生したときにも役に立ってくれると思う。そのときは火矢対策も必要になってくるが。


「クロスボウかー。あれ意外と厄介なんだよな」


 話を聞いていたヘレンが天を仰ぐ。傭兵時代のことを思い返しているのだろう。


「ヘレンの脚でもか」

「いやまぁ、なんとかならなくはないんだけどさ」


 なるんかい、という言葉を俺はグッと飲み込んだ。


「速いし当たると致命傷だしでヒヤヒヤする。こっちが固まってると誰かには当たっちまうし」

「ということは移動ルートがある程度絞られる場合は有効か」

「この森みたいに?」


 頭の後ろで手を組んだまま、こっちに顔を向けたヘレンに俺はニヤッと笑いかけた。


「荷車が通れるくらい幅があるところもあるけど、それより狭いところのほうが多いからな」

「じゃ、バリスタも考えたほうが良いかな?」


 俺が言うと、ヘレンは苦笑した。


「そりゃ、防衛するならあって損はないけど、そんなもんがあったら、いよいよ砦だな」

「“黒の森”の砦かぁ」


 ディアナが目を輝かせる。そういえば、こういうの結構好きなんだよなディアナ……。


「まずはバリスタまでは必要にならないようにしておきたいところね」


 ため息をついて、アンネが言った。それも然りだ。


「とりあえずは、持ち運びもできるクロスボウをいくつかだけで良いんじゃないでしょうか。私が使えるかはともかく、サーミャさんやヘレンさん、アンネさんは弦が引けるでしょうし」


 コクリと茶を飲んだリディが言う。アンネの身長と筋力を考えたら、彼女のは巨鬼オーガでも吹っ飛ばせるのができそうだな。それこそバリスタになってしまいそうだが。


「ああ、あと」

「まだあんのか」


 サーミャが呆れたように言った。俺は頷く。


「森の中で使いやすい武器も揃えたほうが良いのかもしれないなと」

「短剣ならもうありますよ?」

「売るほどね」


 俺の言葉にリケが返し、ディアナが乗っかって、家族が笑う。


「あれはあれで有効だと思うが、メイスみたいなのだな」

「なるほど。ある程度適当に振ってもなんとかなりそうなやつか」


 ヘレンがポンと手を打った。


「あとは殺さない武器かな」

「ボーラとか?」

「ネットとかな」


 ボーラは複数の球体を紐で繋いだもので、これを投げつけると球体の重さで紐が相手に絡みつくという武器である。ネットは要するに人や獣用の投網だ。細めの縄でできていることもあれば細いチェーンで編まれていることもある。

 チェーンのは当たりどころが悪ければ結構致命傷になりそうだが。


「またなんでそんなのを?」

「そりゃ相手を殺したらまずそうな時に使うんだよ。相手がそれで大人しくしてくれるかは別だけど」

「なるほどねぇ」


 ヘレンは再び天を仰ぐ。非殺傷武器にはあまり興味がないらしい。


「でも、あれこれ作るわけにはいかないでしょ?」


 アンネが割と大きめのため息をつきながら言った。俺は頷く。


「さしあたりは生活に必須の暖房を作って、その後クロスボウをぼちぼち揃えよう。上手く出来るようになってきたら、カミロに卸しても良いかも知れないし」

「クロスボウは兄さんが欲しがりそう」


 少し呆れる感じでディアナが言って、「違いない」とヘレンが笑い、釣られるように家族全員の笑い声が今に響くのだった。

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