計画

 手紙の話はリュイサさんには関係ないので、彼女が帰ってからにしようと思っていたが、彼女はめっぽうな長風呂派だったらしい。

 ゆっくりと湯に浸かった後、脱衣所で存分に休んで戻ってきた彼女らを待っていたら、結構な夜更けになってしまっていた。

 仕方なく話を翌日に回すことにして、ご機嫌で帰っていくリュイサさんを見送ったあと皆寝床に入った。

 今日は朝から晩まで盛りだくさんだったな。そう思いながら寝床に入ると、速やかに睡魔が訪れ、俺の意識を刈り取っていった。


 翌日、いつもの通りの作業――今日は量産のナイフだった――を終えた夕食後である。


「実はだな、昨日こういう手紙が届いた」


 俺は皆に手紙を見せつつ、中身をかいつまんで話した。全員に話をしたのは反省もあるが、これからの生活ルーチンに変化がある可能性も考えてだ。


「なるほどねぇ」


 アンネが腕を組んだ。


「不審なところはあんまりないわね。そこまでエイゾウに拘るのはなぜ? という疑問は若干残るけど」

「都で暮らしていくんでたまには寄ってね、じゃないのがな」

「積極的に出来を見てほしい、ってことはいずれの弟子入りも考えて欲しいってことでしょうし」


 アンネの言葉に、頷きながらリケが口を挟んだ。


「親方の腕前なら、弟子入り希望が殺到してもおかしくないと思いますしね」

「うーん、それもなんだかなぁ……」


 俺の腕前は概ねチートと魔力によるもので、完全なる俺の実力とは言い難いのが実情である。その状態でリケとあと1~2人程度ならともかく、何人もと言うのは色々憚られるな。


「で、まずはこの顧問という話なんだが」

「受けるかどうか?」


 ディアナが言って、俺は頷いた。


「条件次第ではあるんだろうが、その条件もどうしたものかなと思ってな」


 条件については、向こうの出方を見て誠意を図る方法もなくはない。1回見るたびに銀貨の数枚も払うというなら、かなり破格の条件と言えるだろう。だがしかし。


「あんまり、そういった試すような方法は取りたくないんだよな」


 試すやつは試される。そういう前の世界でのやりとりは俺にとっては億劫で苦痛なものだった。最低限、ここでの暮らしが守れるなら、それ以上望むことはあんまりないのだ。

 勿論、されたことというのはあるので、全くの手ぶらでもOKとはならないのも確かではあるのだが。


「こちらとしても北方に繋がりができるのは無意味な話ではないし、ここで繋がりが切れて“見えなく”なるのは避けたいわね」


 アンネが言った。あくびをしているのはサーミャとヘレンだ。リディはニコニコと笑っているが、あれは多分そんなに分かってないな。


「あ、もちろん、『こちら』っていうのはこの工房のことよ」


 アンネが慌てて付け足す。俺は苦笑しながら言った。


「わかってるよ。そもそも今の状態じゃ、帝国と繋がりが持てないだろう?」


 アンネはうちに預かりの身で、連絡もままならない状態ではあるのだ。やろうと思えば何かのタイミングで出来るだろうし、それを止めるつもりもないがそうしているような気配はない。俺は続けた。


「貴族と違って守らなきゃならんメンツもほとんど無いが、経緯を考えると五分五分というわけにはいかないか。多少の金銭をプラスして、とかのこちらに利益があるなら受けてもいいって感じかな」

「そうねぇ」

「それでいいと思うわ」


 アンネ、ディアナが続けて頷いた。


「皆もそれでいいか?」

「そういうのはアタシはエイゾウに任せる」

「アタイも同じく」

「私も親方におまかせします」

「私も同じです」


 他の皆も同じか。俺はゆっくりと頷いて意思を確認する。


「わかった、みんなありがとう。で、あとは日時だが……」

「次の納品を1週間後に早めて、そこでいいでしょ」


 あっさりとディアナが言い、他の皆もウンウンと頷いた。頼もしさすらある。俺は今度は笑いながら首を縦に振った。


「よし、それじゃあそこにしよう。早速手紙をしたためるかな……」


 俺は席を立ち、筆記用具を取りに自室へと向かうのだった。


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