連絡

「そう。連絡手段。カミロ、これはマリウスも兼ねてだけど、こっちのほうもそうだし、ジゼルさんとリュイサさんにも互いに連絡できる方法は確立しときたいんだよな」


 夕食時、俺は塩漬けにしていた鹿肉をローストしたものを1切れ飲み込んでから言った。


「カミロのほうは、ディアナのときには他になさそうだったから、森の入口まで俺が毎日手紙を確認しに行く、って手段にしたけど、特になにもないときに空振りが続くのもな」


 自宅のポストが4~5キロメートル先にあったとして、毎日見に行こうと思う物好きはそう多くはあるまい。あらためて考えると前の世界の通信手段が恋しくなってしまう。

 なんとなく、スマホを手に「あら、メールはどうやったら送れるのかしら……。ついったー……って何?」と戸惑っているリュイサさんが思い浮かび、慌てて脳内から追い出す。


「まぁ、今の人数なら森の入口近くに手紙入れを作っておいて、誰かが持ち回りで見に行くのはありかも知れないんだが……」

「やっぱり、場所が森の入口というのがネックですかね」

「そうだな」


 火酒の2杯目に取り掛かっているリケに俺は頷く。サーミャ、ヘレンとアンネはともかく、リケ、ディアナ、リディは1人で森を行くこと自体にリスクがある。サーミャ達も常に無事である保証もないわけだし。特にサーミャはうちに来た経緯が経緯だ。同じことが起きないとも限らない。

 それに、少なくとも名目上はディアナ、ヘレン、アンネはここに身を隠しているのである。よそ者が入り込める森の入口まで1人で向かわせたくない。


「じゃあ、2人ずつで行く?」

「いずれにせよ、身を晒す可能性があるのがなぁ……」

「そんなの今更でしょ」

「うーむ」


 ディアナの言葉に俺は腕を組んだ。言われてみれば街まで頻繁に行っておいて今更ではあるな。であれば、戦闘に長けている組とそうでない組――と言っても、ディアナは剣の腕が立つのだが――の組み合わせにクルルとルーシーを入れればいけるだろうか?

 幸いというか、温泉の湯殿と渡り廊下が完成すれば、しばらくは何かを建築することはない……はずである。家族が増えても空き部屋があるからそっちは大丈夫なので、建築があるとして倉庫か小屋の建て増しくらいか。それくらいなら、一時的にでも人手が足りなくて困る、という事はあるまい。

 クルルとルーシーも散歩になって丁度いいかも知れないし、ひとまずはそうするか。


「とりあえず皆が手間でないならそうしよう。ヤバそうと思ったらすぐ戻ってくる。時間がかかってたら残った全員で様子を見に行く、ってことで今度からやってみるってことで」


 同意の言葉がみんなから返ってきた。これで新しい日課が出来たな。無事にこれが上手くいってくれることを期待したい。あんまりうまくいきすぎて、片目が自分の父親の妖怪少年のポストみたいなことにならないと良いのだが、ということは誰も理解できないだろうと思うので言わないでおく。


「問題はジゼルさんとリュイサさんの連絡手段なんだよなぁ」


 腕を組んだままの俺にサーミャが言った。


「お互い毎日見るような何かだよな」

「言えば見てくれるんだろうけどな」


 向こうから用事がある場合は良いのだ。基本的に俺たちはここにいる。2週間に1回の納品の時には確実に「いない」し、その他突発的な理由で家を空けることはあるが。


「1日1回はうちに来てくれるのが確実ではあるんだけど」

「ジゼルさんはともかく、リュイサさんはなぁ」

「そうなんだよな」


 サーミャの言葉に俺は頷く。ジゼルさんたちは妖精族である。最悪1人~2人くらいここへ寄越してもらうくらいのことは可能だろう。“例の件”を抜きにしても互いにメリットがある話なのだし。

 問題はリュイサさんである。結構な天然っぷりなので忘れがちだが、彼女は“大地の竜”の一部なのである。同様の人物(?)がどれくらいいるかは知らないが、少なくとも彼女は個人としての存在でもあるようだし、力もある。

 そういう人をここへ「毎日来いよな!」と呼びつけるのは、まぁ、普通に気がひけるよねという話だ。


「こっちから伝える方法があればね」


 アンネが最後に残った肉を平らげて言った。同じ肉を狙ったらしいヘレンのフォークは虚空を突き刺したまま止まっている。


「夜空にコウモリのマークを照らすわけにもいかないしなぁ」

「なにそれ? 北方にそんな風習あるの?」

「いや、流石にないよ」


 あの金持ちがこの世界に転生している可能性はなくはないが。NINJAにもなっていたわけだし。

 ともあれ、その後食事が終わった後も、狼煙はどうだとか、大木をハンマーで叩いて大きな音を出すのは? とか、“大地の竜”ならば地面に杭を突き刺して知らせることは出来ないのかとか、喧々囂々の様相を呈し、いずれも決定打とはならずにいたが、議論はノックの音で一旦止まる。


「はい。今出ます」


 とリディが応え、扉を開けると、そこには見知った姿があった。


「どうやら、お困りのようね。ノックしないといけないってジゼルがうるさかったからノックしたわ」


 リュイサさんである。天からの、いや、この場合は大地からの助けに俺は心の中で感謝をしながら、リュイサさんを招き入れるのだった。


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本日コミカライズ版第9話が公開されています。どうぞそちらも御覧ください!

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19201711010000_68/

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