繋がる家族
日が落ちかかる頃、道板を並べ終えた。まだ土で隙間を埋めたあと軽く叩いて締める作業が残ってはいるが、それはともかく一通り家から小屋と倉庫が繋がった。
場所は知れどもまだ見ぬ温泉ともいずれ繋ぐ必要はあるし、屋根もまだ全てにはかかっていないので作業としては完了ではないが、こうやって繋がると達成感はある。あるのだが……。
「凝って石畳にしなくて良かった」
俺は思わずそう呟いた。安心したのは時間がかからなかったことにではない。石畳だったらそれこそ街路のようで、ここが町になるみたいな話にわずかばかりでも信憑性が生じてしまっていただろうが、そうならなかったことにだ。
変更が容易ならずとも大変とまではいかない板敷の通路にしておいて本当に良かった……。
翌日、ヘレンを屋根チームに回し、俺とディアナで残りの作業を行うことにした。屋根の方ももう半分以上は出来ており、今日燦々と照りつけている太陽の日差しを遮っている。雨が降ればそれも遮ってくれるはずだが、このあたりは雨がそんなに降らないので完全な本領発揮となると来年の雨季になるだろうな。
枕木を敷くために掘った土を今度は枕木と枕木の隙間に詰めて、ドンドンと全体を丸太で叩いて締める。前の世界でこんな感じの作業する機械があったな。ランマーだっけ。まぁアレほどの速度や力、仕上がりは必要でもないしやろうとも思ってはないが。
ディアナが土をショベルですくう。枕木の間にそれを落としたら、俺が丸太で叩く。体積が少し減るので、そこにもう少しだけ土をかぶせてまた叩く。それの繰り返しだ。
ずっと2人で同じ作業……だと思っていたのだが、もう1人手伝いがいた。ルーシーである。
俺たちの作業を遠巻きにジッと見ていたかと思うと、作業の終わった箇所にいって、立ち上がるように両方の前足を持ち上げて体重をかけてドスンと下ろした。それを何回も繰り返している。
しばらくそれを行った後、場所を変えて繰り返す。
「パパとママのお仕事の真似かね」
俺は一旦手を止めて、ディアナに聞いた。ルーシーの様子を見ていたディアナの状況は言うまでもないだろう。
ディアナは祈るように手を組み合わせて言った。
「そうね。私達の作業を見て何をしたらいいかわかるなんて、天才かしら」
元々相当に賢いらしいこの森の狼の知性が魔物化することで強化されているとしたら、完全に何をしているか理解して手伝っていることもありえるだろう。
さすがうちの子である。俺はディアナの言葉に大きく頷いた。向こうでは屋根に上がって作業しているリケにクルルが口にくわえた木材を器用に渡している。
あっちはもうそれなりに見慣れてきた光景なのだが、自分が何をすればいいか理解していないと出来ない。ドラゴンなので頭がいい、ということなのだろうか。将来が楽しみなような不安なような。
その屋根の方からは釘を打つ音も響いてくる。今は俺とディアナが手を止めているが、先程まではおそらくディアナが土をかぶせる音、俺が丸太で叩く音も混じっていただろう。
それはきっと小さな演奏会のように“黒の森”に響いていたに違いない。俺自身が客観的にそれを鑑賞するすべがないのが少し恨めしい。
渡り廊下という即物的なものではあるが、それぞれの作業が繋がってひとつのものが出来あがるということ。そんなことも“いつも”になればいいなと、足元にきて褒めてくれと尻尾を振るルーシーを撫でながら、俺は思った。
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