道はまだ半ば

 しんと静まり返った家。はじめてこの家に入ったときのことを思い出した。あれからそれほど経っていないのに、この家も随分とにぎやかになったし俺も以前からそうであったようにそれを受け入れている。

 もしこの家からみんな旅立っていってしまったら、俺はどう思うんだろうな。そんなことを思いながら、閂をかける。

 振り返ると、人影があった。一瞬「ぎゃあ」と叫んでしまいそうになるが、俺は必死にそれを飲み込む。


「なんだ、リディか」


 そこにいたのはリディだった。さっき家の中を見たときはいなかったはず(もちろん見落としていたら別だが)なので、今ここに来たんだろう。


「外にいたんですか?」

「え? あ、ああ。ちょっと月でも眺めようと思って」


 いたのがサーミャじゃなくて良かった。彼女だったら100%バレていたことだろう。


「そうですか」


 リディは静かに微笑む。しかし、なんとなく迫力というか、いわゆるところの“圧”を感じる。ヘレンでも気圧されるんじゃないかと思うくらいだ。

 彼女はエルフで細身で、あまり身長も高くないから雰囲気としては凛としているというか柔和なほうなのだが、ニルダが来たときみたいに妙に迫力を感じることがたまにあるんだよな……。


「別に変なことはしてないから安心してくれ」

「なら、良かったです」


 そう言って、リディは足音もなく自分の部屋へ戻っていく。


「俺も早いとこ寝よう……」


 緊張のドキドキのせいで素直には寝付けないだろうが、少しでも寝ておかないと確実に明日――前の世界基準だとそろそろ日付が変わってそうだが――に響く。部屋に戻り、ベッドに横になると心配していたよりも早く俺は眠りに落ちていった。


 翌朝、今日の天気は曇りである。夏の気温に森の雰囲気が相まって、若干の陰鬱さをもたらしている。気温が高いとは言っても、日光がない分僅かばかり過ごしやすいのがせめてもの救いだろうか。


「降るかな」


 天を仰ぎ見ながら俺が言うと、サーミャも同じように空を見てから鼻を動かして言った。


「いやぁ、これは平気だろ」

「サーミャが言うなら平気かな」

「10回に1回くらいは外れるけどな」


 そう言ってサーミャは笑う。前の世界の某ロボットが出てくるゲームでないなら、90%当たるなら十分な的中率だと思う。今日がその10%にならないことを祈るだけだ。

 俺は笑ってサーミャの頭をくしゃりと撫でると、クワを担いで作業場所へ向かった。


「かなり出来てんなぁ」


 テラスで昼食を取りつつ、ヘレンが渡り廊下を見て言った。昼までは雨も降らずにつつがなく作業が進んだのと、屋根チームも作業に慣れてきたからか思ったより早く進んでいる。俺たち道板チームも、もう残すところあと僅かと言ったところだ。

 昨日今日では終わらないと思っていたが、今日でほとんど片付いてしまうのではなかろうか。それは全然悪いことではないのだが。


「こうして繋がっていくと、あっちも家の一部って感じがするわね」


 そう言ったのはアンネだ。その言葉に家族全員頷く。離れた建物、となるとやはりどうしても隔てた感覚になるが、オープンエアーなものであっても繋がっていると母屋の一部になっていっている感じがある。


「やっぱり早めに作ってよかっただろ」


 俺はわざとらしくドヤ顔を決める。最初に返ってきたのは苦笑ではあるが、


「まぁ、結果論だけどそうね。クルルとルーシーが仲間外れにならないもんね」


 とディアナが言って、「そうですね」とリケが続く。こうして午後のやる気を充填した俺達は、昼飯をやっつけてしまうと、再び家族と家族をつなぐ作業に戻った。

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