繋がりの完成

 ルーシーの手伝いもあって(精神的な助けは“こうかはばつぐん”なのだ)か、道板の敷設は夕方までに終わった。屋根ももうほとんど終わっていると言っていい。

 明日の昼飯までには終わりそうである。それを眺めながら、俺はディアナに言った。


「明日俺たちも手伝ったらすぐ終わるかな」

「そうねぇ。私もなんだかんだ慣れちゃってるし、速度が上がればすぐね」

「わんわん!」


 どうやら明日もルーシーは“お手伝い”をしてくれるらしい。俺は何度目になるかわからない、なでなでをルーシーにしてやって、この日の作業を終えた。


 翌日、昼前には屋根も全てが完成する。落ち着いたBGMに「なんということでしょう」というナレーションが聞こえてきそうである。あのTV番組、まだ前の世界でやってるのかな。

 最後の釘をアンネが打つと、パチパチと森の中に拍手が響いた。本人は「私でいいのかしら」と言っていたが「こういうのは経験だし」と家族全員でやらせたのだ。

 こうして森の中の鍛冶屋とその倉庫と小屋が繋がった。廊下が完成したら、もう1つセレモニーがある。


「じゃあ、失礼して」


 そう言って俺は倉庫前から小屋を経由し、母屋まで渡り廊下を歩く。「楽しそうだ」と思ったのだろう、クルルとルーシーが俺の後をついて歩いた。“渡り初め”とでも言えばいいのだろうか、とにかくそういう感じのことだ。

 俺も「誰が最初に使っても一緒だろう」とやんわり言ってみたのだが、「ここは家長が最初に使えば気兼ねがなくなる」と、これもアンネのときと同じように家族全員の意見でやることになった。

 ただ渡り廊下を歩く、というだけのことなのだが、なんとなく厳かな感じになる。そのうち北方からしかるべき装束でも取り寄せたほうがいいのだろうか……。

 母屋まで渡り廊下を進むと、再び家族から拍手が起きた。クルルとルーシーもよく分からないなりに嬉しいらしく、庭を駆け回っている。


「いやぁ、なんか照れるな、こういうの」

「でしょ! 私もさっきそうだったんだから!」

「今は気持ちがよく分かる」


 鼻息も荒くまくしたてるアンネに俺はそう言った。

 こうやって完成したときに毎度何かをするのは気恥ずかしさもあるが、区切りという意味では大事なことだろう。家族と家族が繋がった節目と言えるものでもあるのだ、派手に祝っても神罰が下ったりはすまい。


 そんなわけで、今日は昼から豪勢にいった。肉をふんだんに焼き、家にある調味料を総動員して様々な味をつけたものを出して、ワインと火酒の両方も解禁である。

 リケはそれを聞いて、早速渡り廊下を経由して一樽倉庫からテラスへと運んで来たりしていた。流石に酒が入った状態で火を扱う作業は危険なので、午後に時間ができたとしても、そこは許可できないのだが、今日のところは全員ゆっくり休むだけにするつもりだったそうなので問題あるまい。


「それでは、新しい建造物の完成と家族のつながりに乾杯!」

「乾杯!」


 こうして昼下がりの“黒の森”の中、知らぬ人が見れば相当場違いに見えるだろう、ささやかな宴が始まるのだった。

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