家のこと

 まる一日を費やして、柱チームの作業はほぼ終わり、道と屋根チームは材料の切り出しを完了して明日以降は組み上げに入ることになる。


「時々やってるけど、こう言う作業もたまにはいいなぁ」


 作業上がり、片付けも終えた俺はそうひとりごちた。サーミャ、ディアナ、ヘレン、アンネの剣の稽古組はテキパキと片付けをすると、そのまま訓練用の木剣を取るため、飛び込むように家に戻っている。

 ここらでは最強と言ってさしつかえないヘレンから毎日のように稽古をつけてもらっている他の3人は、メキメキと実力を伸ばしているらしい。


「もう1ヶ月か2ヶ月か、それくらい鍛えたら、都のあのなんとかって騎士団長より強くなると思う」


 と、最近ヘレンが言っていた。なるほどリュイサさんがこの森の最強戦力と太鼓判を押すわけである。

 サーミャはともかく、他の2人は預かっている、ということにはなっている。例えばアンネを帝国最強の剣士として帰すことになるのもどうかとは思う(まぁ、あの皇帝陛下なら喜ぶかも知れんとも思うが)のだが、ニコニコと話すヘレンを見て、俺は「ほどほどにな……」と返すのが精一杯だった。今日もクルルとルーシーに見守られながら、ワイワイと過ごすのだろう。


 そんな4人を見送りながら、使っていた道具を担ぐと、リケが辺りの様子を感慨深そうに見ていた。俺もぐるりと見回してみる。

 最初はこぢんまりとした家と鍛冶場だけだったが、部屋が増えてテラスも出来た。裏庭が中庭になり、そこにはリディのおかげで立派になった畑がある。表庭の隅には試しうちや訓練のための的も立ててあって、そこだけ訓練場のようにも見える。

 そして、クルルとルーシーの小屋が建てられ、その隣には2つの倉庫もある。そして母屋と小屋、倉庫を繋ぐ渡り廊下を建築中である。水は今も湖へ汲みにいっているが井戸もあるので、水不足に困ることはあまりないだろう。今度温泉も湧く予定だし。

 部屋も今は空き部屋があるが、万が一アレが埋まって更に部屋を増やす場合、今のところどんどん延伸するつもりでいる。だが、それよりも離れのようなものを作ってそれを建て増したほうが良いかも知れない。

 俺がそう思ったのを察知したかのように、リケが言った。


「そのうち、ここが村になってしまったりしないですかね」

「う、うーん……」


 そうやって離れだなんだと居住空間を増やしていくと役割分担も進み、それぞれの生活というものが生まれてくる。全員が家族であろうことに変わりはないが、共同体と言っていいレベルまで達してしまえば、その地域をなんと呼ぶかといえば「村」とはなるだろう。

 水も食料もあてはあるので、多少人数が増えたところで生活を支えていくのに困難になることはあまりないだろう。成立できるだけの条件は整ってしまっているのだ。


「元々住んでたサーミャと弟子のお前はともかくとして、ここで匿わなきゃいけない人間もそうそう増えないだろ……」


 ディアナは王国伯爵家令嬢、アンネは帝国第7皇女、リディは希少な知識を持っているエルフだ。ヘレンは傭兵だがここらのパワーバランスに関わりかねない腕っこきである。そもそも生活に魔力が必要なエルフのリディは選択肢がないのもあるが、いずれ街や都で匿うにも差支えのある立場だ。

 そんな人間に村を作れるほどゴロゴロ出てこられたら、この世界の統治はどうなっているんだと言わざるを得なくなってしまう。それこそリュイサさん経由でもいいから“大地の竜”に猛抗議を入れなければいけないだろう。

 そういうふうなことをリケに言うと、彼女は懐疑的な目をして言った。


「ここらだと共和国もありますし、親方は厄介事に巻き込まれやすいですからね」

「はい……気をつけます……」


 4人には失礼だが、まるで捨て猫をどんどん拾ってくる子供をたしなめる母親のようだなと思いながら、俺は身を縮こまらせるのだった。

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