立つ位置
夕食の時、ふとうちには王国と帝国の人間がいるんだよな、という話になった。そのときに出たのが「今のエイゾウ工房はどういう立場なのか」である。
結論としては「周りから見れば中立」という話にはなったのだが、いざ何かが起きた時のために、どう振る舞うかをあらかじめ決めておくのも大事ではないか、とアンネが言い出したのだ。
「とは言ったものの、前にも言ったけど
「うちは王国だけど、兄さんもそう言うでしょうね」
「俺も前に言ったけど、実際のところどっかに属してる意識はないからなぁ」
たまたま居を構えた……というか、家を貰ったのが“黒の森”だったというだけで、これが帝国の山岳地帯ならそこで暮らしていただろう。
リュイサさんの態度から見るに、“黒の森”なのにはある程度なんらかの意図あるのだろうな、というのは分かるのだが。ここらは他の家族には言えない事情である。
「居住地と巡り合わせで王国の上の方に友人が出来たというだけで、いざ王国と帝国が戦争だなんてことになったときに、『じゃあ王国の手助けをしてやろう』ってことでもないし。個人としてのマリウスを助けるということなら異論ないが」
俺が知っているかどうかで言えば、王国の国王は見たこともないが、帝国の皇帝には会ったことがある。その流れだけで言えばまだ帝国のほうが親近感を持てる。だからと言って助けよう、とならないのは帝国も王国も変わらない。
しかし、友人を見捨てるようなことをしたくないのも確かではあるのだ。アンネが大きくため息をつく。
「結果として王国寄りということにならない? 伯爵から依頼があればそれをこなすつもりがある、ってことでしょう?」
「うーん、まぁ、それはそうなるかもなぁ……」
マリウスに「すまんが剣100本用意してくれ」と言われたらどうするだろうか。最上級のものを用意しないにしても、受けるような気はする。
「振る舞いという意味では来た依頼は基本断らない、て事になるとは思う。帝国からも依頼が来るんじゃないのか?」
「ああ、それはありそうね」
「だろ? で、俺はそれも断るつもりはない」
距離とかルートの話でマリウス……王国側のほうが話が通しやすいというだけで、帝国も今はカミロにルートがあるから、多少の困難はあるにせよ依頼は出来るはずなのだ。
その意味ではカミロはうちに近い立場かも知れない。なるほど、家族が「悪友三人組」と呼ぶわけだ。
「俺の……俺達の作ったもので人が傷つけあうし、なんなら死ぬということについては、もう飲み込むしか無いと思ってるよ。その事実を忘れるつもりもないけどな」
これはまだここに来て間もない頃。サーミャとリケとディアナしかいなかった時に吐露した俺の心情だ。どうすれば良いのか、あのとき迷いはしたが俺はもう迷わないと決めたのだ。
「どちらの依頼も受ける、ってことね」
「そうなるな」
やはり立場としては中立になる。仮に魔王と勇者(こっちはいるか知らんが)の両方から依頼を受けても、俺はどっちの剣も打つだろう。
直接的に利害のある2人も、結局この結論には文句がないようだ。他の「まぁ、住んではいるけど……」な4人はというと、
「アタシは王国と帝国とかで、どっちがどうと言われても興味ないなぁ」
「アタイも同じく」
「私もあまり……」
この“黒の森”に住んでいたサーミャは国家というものの実感がない。町暮らしの獣人族であればまた違うのだろうが。
ヘレンはヘレンで傭兵である。ちゃんと金を払ってくれるなら陣営はあまり関係なさそうだ。帝国には嫌な思い出があるから同条件なら王国を選ぶかも、くらいだろう。
リディについてはエルフということもあって、ある程度世間とは隔絶しているようなものだからなぁ……。
「私は親方の選択に従いますよ!」
と、力強く宣言したのはリケだ。それを見て、周りの皆が「やっぱりな」と「やれやれ」の混じった表情になり、話は終わった。
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