渡り廊下
「ということで、渡り廊下の製作に入ろうと思います」
納品のために街へ行ってから1週間ほど。次に納品するナイフ、剣(長短両方)、槍とを作り終えた日の夕食の席で俺はそう宣言した。皆「おお~」とか拍手してくれる。
「そう言ってはみたが、どういうものを作るのかはまだ決めてないんだよな」
「どういうもの? 渡り廊下に種類があるのか?」
サーミャが首を傾げた。俺は頷く。
「やるかどうかは別として、地面からの高さをつけるか、とかその辺だな」
「あんまり高いと渡り廊下を横切れなくなりますね」
そう言ったのはリディだ。彼女はクルルとルーシーを除けば、家族の中で一番庭をウロウロしていると思う。
リケはあんまり庭に出ないし、他の4人は稽古に表庭へは毎日のように出ているが、畑や竜小屋、倉庫のある裏庭へはそんなに行かない。単純に用事がそんなにあるわけではないからだ。
俺は再び頷いた。
「クルルとルーシーも繋いでないから、あんまり高いと移動できなくて困るだろうし、高くするのは無しかな」
「そうねぇ……」
ディアナがおとがいに手を当てて首を捻る。娘たちのことは“ママ”の意見を容れるに限る。
「普段ももちろんだけど、いざというときにあの子たちの動きを阻害するのは良くないわね」
「だなぁ」
例えば火事のときに逃げ場を塞ぐようなことがあっては一大事である。
もちろん、いざと言うときには渡り廊下も家も一切合財を打ち壊してでも、クルルとルーシーを守るつもりでいるが、それが可能な状況ばかりとは限らない。
そんなときに後悔しなくてすむのであれば、普段の快適や利便、デザインその他あらゆるものをうっちゃる覚悟だ。
スッと小さく手を挙げて話しはじめたのはリディである。
「雨の時にも小屋と倉庫へ、ゆくゆくは湯殿へ行けるようにする、という目的を達成できればいいのであれば、地面に板を敷くのとかでも良いのでは? そうすれば、計画が変更になった時も比較的楽ですし」
「そこに屋根をかければ目的は果たせるか」
コクリ、とリディは小さく頷いた。これからできる施設が湯殿(温泉)だけとは限らない。そのときに作り換えるなら楽なほうがいいか。土の上に敷くのではいずれガタが来るだろうが、そうなったら都度メンテナンスすれば良い。
前の世界でも似たような感じで整備されている山中の遊歩道(さすがに屋根はなかったが)を見たことがあるし、そう荒唐無稽な話でもない……はずだ。森の中も似たようなもんだろうし。
「じゃ、柱を立てて屋根をかける。廊下部分は板……というか、小さな柱のようなものを並べて作るってことで、早速明日からはじめよう」
俺の言葉に皆から同意の声が返ってくる。なんとなくそういう気分になって、俺たちはそのまま乾杯をした。
翌日。水汲みや朝食を終えて、一家は娘2人も含めて庭に集まっていた。
「さて、役割分担だが、希望はあるか? 他のことがしたかったら別にそれでもかまわんぞ」
これが部屋の建て増しとかであれば、力が強くて体の大きいヘレンとアンネをどこに回すかが重要になってくる。速度やらが段違いだからだ。
しかし、今回はそうではない。さすがにすぐ柱が倒れてくるようなことがあれば問題だが、多少なら倒れない程度の強度が確保できればいい。
日常的に通る場所でもあるし、危なそうならすぐに分かるから、危険箇所は発見次第補修すれば問題はあるまい。
それに、多少時間がかかるくらいは問題なかろう。今までのものとは違って、あったら嬉しいことは確かでも、無くて今すぐ困るようなものではないからだ。
であるならば、だ。同じやるなら少しでも楽しくやりたいし、他にやりたいことがあるならそっちを優先してもらいたい。
幸いにして、他のことがやりたいと言いだす家族はいなかった。まぁ、都と違って何ができるというわけでもないからな……。
娯楽の少なさはこの森暮らしの欠点だ。繕いものをはじめとして身の周り品の修繕など、日常的にやらねばならんことも結構あるから、今のところ目立ってはないが。
「よし、それじゃあ、はじめるか。廊下の道筋を引いていくから、それに沿って柱を立てていこう」
森の中に賛同の声が響く。それは、この森にささやかながら新たなものが産まれる小さな小さな産声のようでもあった。
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コミカライズ第8話も公開されております。
是非こちらもご覧ください!
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19201711010000_68/
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