守り人達
翌朝、深夜に起きた影響はあまりなく、いつもどおりの時間に目が覚めた。正確にはいつもと同じ日の上り具合に、だが。
前の世界では連続徹夜も午前様も当たり前のようにやっていたので、1日睡眠時間が削れたくらいではどうということはないのだろう。身体的には若返ってもいるし。
妖精さん達も含めて、皆はまだ起きていなかった。いつもどおりと言えばそうなる。大抵の場合、俺が水を汲みに行っている間に皆起きて支度を始めているからだ。
今日はいつもより起きてくるのが遅い可能性もあるなと、俺はいつもより静かに準備を進めていった。
準備を終えて外に出ると、うちのかわいいおチビさん2人はいつもどおりに待っている。
「今日は皆まだ寝てるかも知れないから、静かにな」
俺は口に指を当てて2人に言った。クルルは静かに「クルゥ」と返事をし、ルーシーも小さな声で「わふ」とだけ鳴いた。
「よしよし、お利口さんだ」
2人の頭をなでてから水瓶を渡す。俺とクルルは2つ、ルーシーには小さいのを1つだ。3人で湖へと向かった。
「あれ、皆起きてたのか」
帰ってくると、皆普通に起きていた。妖精さん達3人もだ。
「いつもよりはちょっと遅かったけどね。でも、そんなに遅くはなってないわよ」
ディアナが答える。見た感じいつもと同じで眠そうには見えない。一晩だけだし若いからだろうか。他の皆も特に眠そうにしている感じはない。
ただし、アンネは別だ。彼女が眠そうなのはいつものことなので見分けがつきにくい。
大丈夫か聞いてみたが、手をひらひらと振りながら、
「いつも通りだからおかまいなく~」
とのことだった。よし、問題ないな。
その後、朝食を皆でとった。想像していたとおり、身体のほとんどを魔力で構成している妖精さん達は、食事は極々少量で済むらしい。
食べようと思えば食べられるが、必要な量は俺たちの小指の爪程度であるらしい。1日でその量なので、丸一日なにも食べないことも多いと言っていた。「花の蜜で生きている」みたいな話もこの世界ではあながち間違いとも言えないってことか。
後は肉の類は余り好きではないとのことである。なので、乾燥した野菜を煮込んだ後、肉を入れる前に妖精さん用にほんの少し取り分けたものを用意しておいた。味付け自体は塩と胡椒が基本である。
肉が入っていない分、俺個人としてはひと味足りない感じがするが、ジゼルさんに味見(さじから飲んでもらった)してもらうと、
「美味しいです!」
とのことだったので、妖精さん達にはそちらを出すことにした。彼女たち用の食器はないので、小さなカップへ取り分けになる。彼女たちサイズのさじもないので、それを詫びると、
「いえいえ、お気になさらず」
と、カップから直接飲んでいた。うーん、やはり一通り片付いたら妖精さんサイズの食器を用意するか……。
朝食時の話題はジゼルさん達妖精の普段の生活についてである。知性があり、社会性もある以上、何らかの役割分担がなされているのかと思いきや、自分たちのことはローテーションで行っているらしい。
食料の調達や、被服、住処の手入れなどは全員の持ち回りなのだと言っていた。唯一それらとは違う役割なのが長たるジゼルさんで、それらの統括調整をしているそうな。
あとは森の樹々の“調整”をしているらしい。具体的なことは教えてくれなかったので分からないが、人の手の入っていない森にしては歩きやすかったりするのは、彼女たちのおかげっぽい。
「魔力が澱みやすいこの森で、魔物ができるだけ発生しないようにするための大事な仕事なのです」
とジゼルさんが言い、リージャさんとディーピカさんも胸を張っていたので、妖精族の誇りなのだろう。
「じゃあ、守り人のようなものなのですね」
俺がそう言うと、3人揃って目をキラキラさせ、「それです!!」と言っていたので、そのうち自称しだすかも知れない。
うちが家を拡張したり、その他生活のために木を伐り倒したりしていることについては、
「この森に暮らすなら、そういうことも必要でしょう?」
で、あっさり流された。守り人が問題ないと言っているなら、当面は平気か。流石にこの森を開墾して都に負けない街を作ろう! とか言い出したら止められるだろうが。
「魔物といえば、うちのあの子は魔物なのですが……」
最初は黙っていようか迷ったが、ここで伏せて後々の信頼を失うのもよろしくあるまい。意を決して俺が言うと、朝ごはんの肉を平らげて横になっていたルーシーが、なあに? と俺を見て尻尾を振った。そこへスッとジゼルさんが近づいていく。
ルーシーがガブリとやってしまわないか、逆にジゼルさんがルーシーに何かをしやしないかと、家族皆はハラハラしながら見守る。何かあれば家族であるルーシーの味方をするつもりで、俺も2人に近づいた。
ジッとジゼルさんがルーシーの目を覗き込む。俺が引き離すべきか逡巡していると、ジゼルさんはフッと微笑んで言った。
「お利口さんね、あなた」
「わん」
ジゼルさんはルーシーの頭を撫でた。ルーシーはブンブンと尻尾を振っている。困ったような顔をしてジゼルさんは俺の方に向き直る。
「どうしても魔物は発生してしまいます。私達の手の行き届かないところでもうしわけないのですが……」
「いえ、そりゃ自然相手ですから仕方ないですよ」
「育ての親が良いのでしょうか、この子は大丈夫ですよ。あっ、こら、くすぐったい」
ルーシーはぺろりとジゼルさんの頬、というよりは大きさ的に頭全体を舐めた。俺はホッと胸をなでおろす。俺以上にディアナとヘレンが特に安心しているようだが。
2人の場合はルーシーは魔物だから始末するって話になったら、妖精さんたちと戦になってでも守ると言い出すだろう。そうならずに済んで本当に良かった。
俺はなんとなく「あなた達はこの森に住んでいていい」と言われているような気もして、朝食をいつもより余分に食べたのだった。
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