最初の1人
半日ちょいをかけて家族の証であるナイフを作ったら、納品物の製作に入る。
今日の残り時間では大した数は作れまいが、納品できる量に達するのが早ければ、それだけ休みが近づくのだ。
休みか。多分、近々の休みには誰かと過ごすことになるだろうな。
俺が夕飯の準備をしている間に何やら皆で話しているようなので、恐らくは順番や内容なんかは決まりつつあるんだろうが、どこまで決まったのかは何となく憚られて俺からは聞いていない。
どことなく怖さ半分、楽しみ半分の気持ちを抱えながら、ワクワクでうっかり魔力をこめすぎてしまわないよう、注意してやがてナイフになる板金に鎚を振り下ろした。
そうして、納品の日が巡ってきた。それまでの2週間ほど、特に何を言われることもなく、いつも通りの時間が過ぎ去っている。
間に1日ほど休みも入れたし、狩りで鹿を回収してその日の午後はまるまる空けたりしたが、そこでは特に何も言われなかった。皆思い思いに過ごしていただけだ。
納品についてもいつも通りに終わった。いつからかカミロには世の中の情勢を教えて貰っている(”インストール”では現在のリアルタイムな情報はつかみようもない)のだが、
「特になにか起きてるとは聞いてないなぁ」
「帝国とも?」
「そうだな。ああ、公にはされてないが、ヘレンの捜索についてはこの間打ち切りが通達されたらしいぞ。数人それらしいのが帝国へ戻ったのを王国でも確認している」
「そうか」
それを聞いて、俺だけでなく家族全員がホッと胸をなで下ろした。アンネも含めてだ。解決するとは聞いていたが、目下我が家で一番の懸念だった事柄が正式に解決したのは大変に喜ばしい。
「他は本当に何もない。まぁ、ずっとやってる小競り合いなんかはあるが、平和なもんだよ」
「魔界とかも?」
「今は大人しいな。哨戒部隊同士の遭遇戦なんかはあるんだろうが……」
「そこから大きな戦には繋がってない、か」
「そうだな。やたら強い魔族がいるという噂は聞いたが、そいつも適当に切り結んだらさっさとひきあげてしまうらしいし」
「へえ」
ニルダかな。彼女には特注品の日本刀を打った。腕のほどは後でヘレンに聞いてみるか。
「魔物がわいたとも聞かないし、しばらくは何事も起きなさそうだ」
「じゃあ、武器を減らして他のものでも作ったほうがいいか?」
「いや、帝国にも販路は広がったし、共和国にも売ってるから、今まで通りでも問題ないぞ」
「そうか」
「もちろん、色々作ってくれるならありがたいが。お前の商品なら、売る道はいくらでもあるからな」
「善処するよ」
笑いながら言ったカミロに、俺も笑いながら返す。こうして、この日の納品は終わり、丁稚さんにチップを渡しながら頭をガシガシと撫で、街道と森を戻って家に着く。
家族みんなで手分けして荷物を運び込み、クルルとルーシーの汚れを軽く落としてやって(ちゃんと落とすのは明日の水汲みの時だ)、めいめい自分の汚れを落としたら自由時間となる。
いつもであれば三々五々散って自分の好きなことをするのだが、今日はディアナから話があると言うことで、みんな居間に集まることになっていた。
俺がパパッと汚れを落とし終わって居間に向かうと、同じく手早く済ませたのだろう、ヘレンとサーミャが先にいて、他のみんなはまだだった。
「前にも聞いたかも知れんが、魔界の近くで魔族とちょっとやりあったろ」
みんなを待つ間、俺はそうヘレンに聞いてみた。
「ん? ああ。哨戒任務中だったかな。何回かやってる」
「その中の1人がうちに来たぞ。武器を打ってくれと言うから、打ってやった。なんかお前に言われたと聞いたが」
「あー、そんな覚えがあるような、ないような……」
「強いのはいたのか?」
「それなら、うん。心当たりがある。……ああ、さっきの」
「うん」
俺は頷いた。ヘレンはそれを見て、ため息をついた。
「あの腕でエイゾウの武器を持ってんなら、そりゃ強敵にもなるよ」
「そういうもんかね」
「そういうもんだよ。アタイだってそれで救われてんだし」
そう言ってヘレンはフッと笑う。そこへ俺たち以外のみんながゾロゾロと部屋の方から居間へやってきた。
皆が席について、リケとリディがハーブ茶を用意してくれると、ディアナが言った。
「さて、それじゃあ始めましょうか」
「話があるってことだったな」
俺の言葉にディアナは頷いた。
「前に言ってたわよね、”休日に2人きりで過ごす”話」
「ああ、覚えてるぞ」
「それの順番が決まったから、それをエイゾウに伝えておこうと思って」
それだけのためにしちゃ仰々しいなと思ったが、口にはしないでおいた。彼女たちには大事なことなのだろうし。
そして、ディアナから告げられた最初の1人は――
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