大成果
そんな和やかな朝食を終え、出かける準備をする。勝手知ったる森の中、猪の引き上げに行くだけではあるが、何があるか分からないので、各々武器を携えていく。
刺客がうろついていなかったとしても、もっと怖い熊なんかがうろついている可能性は十分にあるからな。出くわしたときに最も被害無く切り抜けるためには、素早く倒してしまうしかない。攻撃は最大の防御、というわけである。
ただし、アンネは昨日打った売り物のナイフ(一般モデル)だ。短槍ならまだしも、さすがに両手剣はなかろう、ということでそうなったわけだが、本人はいたって不満そうである。
「エイゾウさんもそんな長い武器持ってるのに」
「いや、さすがにあの両手剣よりはかなり短いですからね」
ふくれっ面で指摘してくるアンネを軽くいなす。もちろん、”万が一”も考えてこうしているのだが。両手剣に元々の体躯の大きさを考えると、槍でも多少苦労しそうなリーチになる。
9割がた大丈夫とは思っているが、残りの10%は家族の誰かが死なないまでも大ケガをすることはありうるのだ。100%安全だと判断できるまでは用心するに越したことはない。
高級モデルではなく、一般モデルにしたのも同じ理由だ。何かあったときになるべく被害は少ないほうがいい。
そんな俺の考えを他所に、その一点以外はクルルとルーシーに負けず劣らずご機嫌な様子でアンネは森の中を歩く。彼女の様子を反映するかのように、今日は陽の光がそこかしこに差していてかなり森の中が明るい。
遠くにリスっぽい生き物や、いつも狩っているのとは違う種類の鹿の姿を見かけ、そのたびにアンネがあれは何かと尋ねて、サーミャが答えている。
昨日は見なかったのかと俺がアンネに聞くと、
「昨日はそれどころじゃなかったので」
という答えが返ってきた。ああ、なるほどな。万が一を視野に入れたとしても、この森を気に入ってくれるに越したことはない。楽しかった思い出の場所になってくれれば変な気を起こす確率も減るだろう。……減るよな?
のんびりと、いつもよりも時間をかけて沈めた場所にたどり着いた。
「デカいな」
「そう言っただろ?」
俺の言葉にサーミャが胸を張った。まだ湖にも入ってないが、その威容が見て取れる。体長ではなく、体高で俺の身長くらいありそうだ。重さで言えば500キロ近いのではないだろうか。前の世界でヨーロッパの方ではデカいとそれくらいのがいるとは聞いたが、ほとんど怪物だな。
リケとリディにはいつもより余分に木を切っておいてもらう。その間に引き上げだ。手分けして脚を持ち、引っ張る。多少の浮力ではなんともならないくらいの重さを感じた。
「この重さだったら、ここまで引きずるのも大変だったろ」
「アンネさんが疲れ果ててたのもそれなのよ」
今度はディアナがそう答えた。走り回った挙げ句の力仕事はそりゃ疲れるわな。
引き上げた猪はやはりとんでもなく大きかった。人が2人くらい隠れられそうだ。前の世界のアニメ映画で猪の毛皮をかぶって匂いを誤魔化しているという猟師集団がいたが、これなら出来そうだなと思える。
内臓は抜いてあったが、それでもこの重さということは内臓も相当な量があったに違いない。ここらの狼たちにとっては良いごちそうになったことだろう。
皆で力を合わせて、なんとか湖から引きずりあげ、リケとリディが組み立ててくれた運搬台に乗せる。いつもよりも大きく作ってくれたのだが、それでも少しはみ出しそうなくらいにデカい。
「よし、それじゃあ頼んだぞ。無理だったら止まれよ」
「クルルルルルルル」
そう言ってクルルの首筋をさすると、彼女は任せとけとでも言うように一声鳴く。
直後、ズシリと言う音が聞こえそうな一歩を踏み出し、ゆっくりと森の中を進んでいった。
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