守りたいもの

 俺はそのまま剣を仕上げていく。最初だからショートソードだ。量産と高級のどちらのモデルにしようか少し迷ったが、せっかくなので高級のほうで仕上げていく。

 鎚を振るって魔力がこもるたび、火花とともにキラキラとしたなにかが飛び散る。リディ曰くは「剣に入りそこねた魔力の残滓のようなもの」で、魔力の扱いに慣れてないと見えないらしい。

 リケが「最近は親方のが少し見えるようになってきました」と言っていた。そう遠くないうちにハッキリ見えるようになるかも知れないな。


 鉄を流す腕が良いのか(鋳造では注型の腕前も出来上がりに影響する)、型の素性が良いのかはともかく、割とすんなりと仕上げを進めることが出来た。焼入れや柄に皮を巻きつけたりといった工程を経て、最後に刃をつければ完成である。

 普段なら刃付けとかはまとめてやるのだが、ここも今回は特別に1本だけを仕上げていく。

 結果として高級モデルの中でも”いいほう”になってしまったが、特注品レベルのものではないので問題なかろう。

 しかし、自分でみてもなかなかの出来になった、と自負できるくらいだ。これ単体で卸すとしたら、普段の1.5倍くらいの料金は取るかも知れない。

 俺は完成したばかりの剣をかざした。剣は火床や炉の炎を照り返して、オレンジ色にキラリと輝く。


「これで完成です。ああ、鞘はまだですが」


 出来たものをアンネに見せると、型を作っていた手を止めて、特徴的なタレ目をキラキラと輝かせながら剣を注視した。


「これの型を私が……?」

「ええ。あなたの作った型に鉄を流して、そこから仕上げた剣です」

「手にしても?」


 おずおずと俺に尋ねるアンネ。俺はちらっとに目をやった。俺たちのやり取りを見ていた彼女は俺の目線に気がつくと、そっと頷いた。


「構いませんよ」


 俺がそう言うと、アンネは布切れで手を拭って、そろそろと剣に手を伸ばした。両手剣を手にしたときを考えれば、剣を手にするのは初めてではないはずだが、まるで生まれてはじめて剣を手にするかのように慎重だ。


「ふわぁ」


 剣を持ち上げたアンネはなんとも可愛らしい声を上げた。目の輝きが一層強くなっている。

 欲しかったおもちゃを貰った子供のようだな、そんな風に俺は思った。今こうやって引きこもっている間だけ、彼女が「第7皇女」という立場をすっかり忘れることができているのかも知れない。

 それはディアナもほとんど同じで、ここにいる間だけは「エイムール伯爵家令嬢」としてではなく、「エイゾウ工房の家族の1人」として振る舞える。だが外に出れば、本人の希望によらず、その立場を無視することは出来ない。

 だから、遅かれ早かれ、そしてどんな形でなのかは分からないが、いずれアンネがここから出ていくときには、やはりその肩書が再びついてまわることになる。


 ほんの少しの”いつも”がこの状況から彼女の心を救ってくれると助かるんだが。剣についてヘレンと話し合う彼女を見て、俺はそう思わずにいられなかった。

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