欲しいのは情報源

「グゥッ」


 脚を切り裂かれたやつは呻くような声を上げた。俺は回転を止め、再び返す刀で斬りつける。脚を切り裂いたやつでは無く、この集団のリーダーであるらしい頭に矢が刺さった男のほうだ。

 矢は深々と刺さっているので、既に事切れているか、放っておいても遠からず命の灯火が消えることは間違い無いが、その首元に一陣の青い風を吹かせる。

 首と身体が泣き別れになって、どう、と倒れた。


「こっちはいいぞ!」


 俺は叫んだ。勿論、ヘレンにである。その声を聞いて、ヘレンの目がギラリと光る。サーミャ以上に猛獣のようだ。

 瞬間、青い稲光が相手の3人の間を走り回ったかと思うと、その3人もぬかるんだ地面に倒れ、派手に水しぶきを跳ね上げた。


「どうだ?」

「仕留めたよ。とどめもいらない」

「わかった」


 俺もヘレンもあまり多くを語らない。必要ないからだ。俺と彼女で、脚を切りつけた奴のところへ向かう。そいつは倒れたままで動いていない。

 大動脈を斬ってはいないと思うが、そこそこ深く斬りつけたし、動くのは難しいだろう。肩口を踏みつけて動けないようにした後、手にしていた剣を蹴飛ばす。


「さて、俺たちの言いたいことは分かるな?」

「……」


 雨で多少流れていたが、俺は抜身の刀身についた血を振り払って聞いた。さっきの声を聞く限りは男だが、性別はこの際どうでもいい。

 暫定男は黙ったまま何も言わない。これで喋ってくれれば、楽なことこの上なかったのだが、そうもいかないか。


「誰に言われてここに来た?」

「そう聞かれて言うと思うか?」

「だよな……」


 そりゃ絶体絶命だからとペラペラ喋るやつが、こういうミッションに駆り出されるわけがないよな。

 スッとヘレンが近づいて、手にした剣をグサリと男の太ももに突き刺す。


「グッ……」


 男は呻くが、覆面の下から反抗的な目線を送ってくることを止めない。それを見てグリッとヘレンが剣をひねった。見てるこっちが痛くなってきそうだ。

 それでも男は何も言わない。ヘレンはもう片方の剣を首に当てた。次はない、と言うことだ。少し皮膚が裂けたようで、首に滲んだ血が雨で流れ落ちる。

 男の目が歪む。笑ったのだ。こいつもしや……!


「くそっ!」


 止めようと手を伸ばした次の瞬間、その目がぐるんと裏返った。ヘレンも状態に気がついたらしく、剣を引っ込める。

 首筋に手を当ててみても、もう脈は触れなくなっていた。


「毒か」

「だろうな」


 やたらと効き目が早い毒だ。詳しくはちゃんと調べれば分かるだろうが、ともかくはこれで情報源がなくなった。簡単に手に入るとも思っていなかったが、雨期が終わって街に行く時にでもカミロに厄介事を持ち込まないといけないな……。


「とりあえずここらを”片付ける”ぞ」

「おう」

「わかった」


 俺とヘレン、サーミャで5人の死体を森の奥へ引きずり込む。地面には戦闘や引きずった跡が残ってしまうので、そこらの葉のついた木の枝を切って箒代わりに隠滅しておく。

 これから待ち受けるであろう厄介事で気が重くなった俺を慰めるかのように、強くなりそうだった雨脚はその勢いを弱めていた。


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