戦い
シトシトだった雨がほんの少しだが勢いを増した。アンネはどのみち今日中に帝国へ帰るのは難しかったかも知れないな。
「5対3か。まぁ5とも限らんが」
「余裕だろ?」
俺の言葉にヘレンが軽口を叩く。相手に動揺はない。カマをかけて本当の人数の手がかりでもつかめればと思ったが、そこまでマヌケではないらしい。
「お前はそうかも知れんが、俺は素人だぞ」
「よく言うぜ」
ヘレンは苦笑するが、実際に戦闘そのものについては素人だからなぁ……。
男たちはジリジリと間合いを詰めてきた。サーミャはそれに合わせて少し下がる。得物の特性もあるが、逃げたみんなの方を追うやつがいたら、そっちの対応をして欲しいしな。
包囲が俺の刀が届くか届かないかくらいのところで止まる。
「最後の警告だ。そこを通せ」
「失礼だな。そう言われて、はい分かりましたと通すほどのバカに見えたのか?」
男はそれ以上の言葉を発しなかった。その代わり、俺の質問に対する答えだと言わんばかりに斬り込んできた。
「おっと」
斬り込んできたその手を、俺は構えていた刀で斬りつけようとする。相手は手にしていた短剣(一般的なやつよりも少し短いが)で受けようとするが、”薄氷”はいともたやすくそれを斬り飛ばした。
文字通りの返す刀で今度は胴体を狙ったが、一瞬早く男が飛び退って空振る。
「チッ。北方の武器は厄介だな」
男は今のを刀の特性だと思ったようだ。薄氷の刀身が薄青く光っているので、ある程度特殊なことには気がついているだろうが、まさか性能がケタ違いとは思うまい。
男が剣身の途中からがなくなった短剣を投げ捨て、予備であろう短剣を抜き放った。
「逆に言っておくが、帰るなら今だぞ?」
男に一瞬の逡巡が見えた。数で押せそうか判断しているのだろう。後々面倒にはなるが、対策を練ることができるので去ってくれたほうがありがたい。
しかし、彼は構えを解かなかった。それならこっちも容赦はすまい。横目でサーミャに視線を送ると、彼女はごく小さく頷いた。
男の横にもう1人加わってくる。2対1。残りの3人はと言うと、ヘレンの猛攻を必死に凌いでいるが、あれは牽制が主でまだ仕留める気はないようだ。彼女も逃さないつもりらしい。しかし、3人相手にしてアレか。”迅雷”の二つ名は伊達じゃないな……。
今度はこっちの番だと横薙ぎに斬りつける。思ったとおり、2人共飛び退ってくれた。俺は刀を振るった勢いそのまま、横に回転する。
回転する俺の後頭部スレスレを通り過ぎるものがあった。サーミャが放った矢だ。その矢は俺の攻撃を回避し、スキが出来たと突っ込んできた2人のうち、最初に対峙した男の頭に飛び込んでいく。
男は避けない。頭にそれなりの防護を施しているのだろう。それが普通の
「ギャッ!?」
矢が頭に刺さり、男が苦悶の声をあげる。サーミャが放ったのは普通の矢ではない。俺特製の矢だ。相当に硬いらしい、この森の猪の頭蓋骨をも容易く貫いてしまう鏃である。多少の防護をしたところで防げるものではない。
おれはそのまま回転を続けながらしゃがみ込み、振り向きざまにもう1人の脚に刃を走らせる。
一条の青い光がその脚を切り裂いた。
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