何度めかの納品

 そうして幾日か納品用に製作を続け(その間にサーミャ達はそれぞれ自分の作業をしていた)て、納品の日になった。数としては十分確保できているから、納品には問題はない。

 納品物を荷車に積み込みながら、クルルと荷車を繋ぐ。クルルは久しぶりに荷車を牽けるのが嬉しいのか、目に見えて機嫌がいい。今もあまり大きくはない声でクルクルはしゃいでいる。

 ディアナがそれをなだめている間に、荷物の積み込みを終える。御者台にリケが座り、手綱を操るとクルルは一声鳴いてゆっくりと歩き出した。


 道中気をつけるべきは熊と野盗か。賊はもう国許へ帰っただろうしな。その辺の経緯は製作の合間に手紙にしたためておいた。カミロ経由でマリウスにこいつを届けて貰う必要がある。

 あとは畑がどうなるか分からなかったから棚上げになっていた芋と、北方の調味料の入手についてカミロに聞かねばいかんな。


 そこそこの速度で森を抜けていく。鳴き声が甲高い鳥や時折遠くから狼達の声が聞こえる以外には、竜車の走るガラゴロという音だけが森に響いている。その音のせいもあってか、熊に出くわすことなく森から出ることができた。

 街道に出ると速度は更に上がる。ニルダがいなくなった(彼女が約束を守っていればだが)とは言え、野盗の危険は依然としてあるので、警戒は怠らない。

 こう言う場合にも射程の長い武器のほうが有利な点は多いし、新しい武器としてはまずはそのあたりを作るか。


 街道でも結局何事も起こることはなく、無事街に辿り着くことが出来た。入り口に立っている衛兵さんに車上から会釈して通り過ぎる。

 こうやって来るのはまだ2回めなので街中ではまだ馴染みが無いらしく、遠慮のない視線を向けられることが多い。

 向けられる視線の2割くらいが車の足回り、7割がクルルで、1割はリディだ。それぞれ珍しいのは間違いないので、仕方ない部分はある。リディへの視線が減っているのは何度か来ているので、その分見慣れたということだろう。


 街中をゆっくり進んで、カミロの店の倉庫に到着する。倉庫に竜車を入れたら、クルルを切り離して店の裏手につなぎとめる。前と同じように店員さんに水と飼い葉を頼んで、勝手知ったる店内を進んで商談室に入った。


 しばらく身内で雑談していると、いつものようにカミロと番頭さんが商談室に入ってくる。

「よう。」

「おう。」

 挨拶は最小限にしてさっさと本題に入る。

「今日は持ってきたのはいつものか?」

「ああ。数もいつもと同じくらいだ。」

「分かった。」

 今回はカミロからは特に何もないのだろう、すぐに番頭さんに目配せをする。番頭さんは頷くと部屋を出ていった。


「それで2つほど頼みがあるんだが。」

「エイゾウが?珍しいな。」

「まぁ、ちょっとな。」

「いいぜ、なんだ?」

 俺は懐に入れた手紙を取り出してカミロに出した。

「まずはこいつをマリウスに届けて欲しい。」

「内容は?」

「街道に出ていた賊についてだな。」

 俺はニルダのことをかいつまんでカミロに話す。カミロは驚きながらも、「まぁエイゾウのやることだからな……」と納得はしていた。

「それで、問題はなかったのか?」

「ああ。俺の言いつけを守っていてくれたなら、もうとっくに国に帰っているはずだ。」

「つくづくお前はトラブルに巻き込まれるな。」

「大半はお前とマリウス絡みだっただろ。」

 俺は苦笑してカミロに返す。カミロも「違いない」と笑いながら言っていた。


「こっちはわかったよ。責任を持って必ず届ける。」

「頼んだ。」

「で、もう1つは?」

「種芋の入手と、北方の調味料の入手を頼みたい。」

「なるほどねぇ……。」

 俺の要望を聞いてカミロは思案顔になる。

「何かまずいことがあるか?それなら……」

「いや、そう言うわけじゃない。」

 俺が遠慮しようとすると、カミロは片手を振ってそれを遮った。

「種芋は幾らでも調達できるが、北方とのやり取りは俺は強くないから、少し時間がかかりそうだ。」

「いいぜ。調味料の方は気長に待つよ。」

「そうしてくれると助かる。北方の調味料はなんでも良いのか?」

「ああ。入手できて保存の効くものはなんでもだ。」

「わかった。俺の名前にかけても必ず確保しよう。」

「すまんな。」

「良いってことよ。これが俺の仕事だからな。」

 カミロが笑いながら言い、俺とカミロは今一度の握手を交わすのだった。

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