次の予定を決める
話がまとまったので、他愛のない話をして次回はまた2週間後に来ることを告げる。
「そう言えば、サスペンションの開発はどうだ?」
「ああ。今の所お前の助けを借りなけりゃならないような事は起きてないよ。もうそろ試作品が上がってくるはずだ。」
「それなら良いんだ。俺が来るのは2週間に1回だが、何かあったら遠慮なく言ってくれ。」
「わかった。すまんな。」
「いいってことよ。」
そう言って俺達は商談室を後にし、クルルの元へ戻った。
クルルを見てくれていた丁稚さんにチップを渡して、荷車にクルルを繋ぎ直して出発する。街中をゆっくり進んで、衛兵さんに会釈をして街を出た。
クルルが来る前は時折衛兵さんの交代時間を過ぎていることもあったが、クルルが来てからは到着が早まっている分、帰りも早い。まだ2回こっきりだが、衛兵さんが交代する時間よりはだいぶ早く街を出られている。
このあたりはクルルさまさまというより無い。おかげで家に帰っても十分な時間が取れそうだ。
やや重い空模様のなか、続いていく街道をクルルの竜車が進んでいく。いつも通りののんびりした街道の風景だ。
「前はここでニルダが出てきたんだよなぁ。」
「そうでしたね。」
俺の言葉に御者台のリケが答える。
「今日は何も出ないといいんだが。」
「気は抜けないですね。」
今もサーミャとディアナは周囲に目を走らせて警戒している。俺も気を抜いているわけではなく、周辺におかしい動きがないかや、気配を感じないかに注意を払っている。リディは武術的な警戒はしていないが、魔力的な警戒は行っている。
この世界ではある程度の魔力を持っていて、なおかつ手ほどきを受けている者が魔法を使えるようなので、魔法を使える人間の絶対数が少ないのだが、それでも野盗が使ってこないという保証は何一つないからな。なんせ魔法を使える鍛冶屋がいるんだし。
しかし、この日は結局街道では何も起こらなかった。おそらくはまだ賊の捜索や警備で衛兵隊の巡回が増えていたりするせいだろう。その結果として治安が良くなっているのはやっぱり皮肉ではあるな。
周囲を伺って森に入る。竜車はそこそこ派手な音をたてるから、好奇心旺盛な動物以外は近寄ってこないので、普段はここからの方が安心なくらいなのだが、今は熊が比較的近所をうろついているから、気は抜けない。
クルルとサーミャの感覚が頼りではあるが、どちらも鋭敏さにかけては信頼できるので彼女たちの警戒をメインに、俺とディアナの目視、リディの魔力警戒で体制としては万全を期しての警戒を続ける。
森でも時々タヌキみたいなのが顔を出した以外は何かが起きることもなく、無事に家にたどり着くことが出来た。
この生活を始めてからそこそこになるが、毎度過剰な警戒をしているのでは、と言う感覚が拭えない。前の世界では世界的にはかなり治安がいい国にいたから、その感覚でものを考える癖がついたままになっている。
なんせ40と数年はその感覚のままで過ごしてきたのだから、数ヶ月かそこらで抜けるわけもない。このあたりは今後この第2の人生を送るなかで、変わっていければ良いのだが。
家に着いて諸々を片付けていく。クルルは荷車を牽けてかなりご機嫌なようだ。装具を外してもあたりを走り回っていた。
家に帰った後は本来は思い思いの時間を過ごす事になっているが、今日は今後の予定についての会議……と言うと少し大げさだが、話し合いの時間だ。
「そろそろ倉庫が必要だと思う。今はまだ平気だが、必要になってから建てたんじゃ遅いし。」
開口一番、俺はそう切り出した。
「そうねぇ。今後、農作物の収穫とかするようになれば必要よね。」
「炭や鉄石もなるべく貯蔵したいですしね。」
ディアナとリケは賛成のようだ。
「革とか肉を置いとくスペースは、家とは別にあったほうが良いとアタシも思う。」
「私も異論はありません。畑の規模的には大収穫はないでしょうけど、すべてをこちらで貯蔵するのは不可能だと思いますし。」
サーミャとリディも異論はないらしい。
「じゃあ、明日からは倉庫2棟を作るか。」
俺がそう言うと、
「部屋の追加は良いのかよ?」
サーミャが混ぜっ返してきたので、俺は渋面を作ってそれに答える。
「これ以上家族が増える予定はないから、いらないんじゃないか?」
「ホントに?」
ディアナが完全に信用してない目線を向けてくる。それはサーミャは言うに及ばず、リケもリディもだ。
「ホントだよ!」
俺はそう叫んだが、女性陣は
「まぁ、余裕ができたら作りましょう。」
「そうね、それが良いわね。」
「異議なし!」
「そうですね。」
と俺の言葉に耳を貸さないのだった。
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