第6章 帝国革命編

森暮らしということ

 ニルダを見送った俺達は誰からともなく家の中に入っていった。ウチの受注スタイルだとこう言うときに寂しさを覚えてしまうのは致し方ないのだろう。

 慣れれば良いのだろうが、こういうのは慣れてしまうのも良くないようには思っている。寂しいときは寂しいでいいのだ。


 今日はサーミャとディアナ、リディはクルルと一緒に狩りに出るらしい。メインはサーミャとディアナで、リディとクルルは散歩も兼ねた補佐ってところか。

 ニルダが居る間狩りに行かなかったのは、ニルダがそっちについていった場合、採取と違って狩りはより広範囲を動くし目も届きにくいので、なるべく黒の森の情報を渡さないようにとの配慮だったそうだ。

 どおりで狩りを気に入りそうなニルダがいる間に行ってないと思った。俺はそんなこと微塵も意識していなかったので、少し申し訳ない気分になる。

 気を取り直し、俺とリケは2人で鍛冶作業である。俺はちょっと急ぎ目に作っていかないとな。


 まずはナイフからだ。いつもどおり、板金を熱して鎚で叩いていく。その時、刀を作ったおかげなのか、ナイフを鍛造する速度が若干早くなったような気がする。

 元々チートで早いはずなのだが、そこからの成長もあり得るということなのか、チートに体が追いついてきているだけなのか。

 そのどちらなのかは俺にも分からないが、少しでも伸びる余地があるのであれば伸ばすだけだ。


 その後も一心不乱に板金を叩いてナイフを作り続け、サーミャ達が帰ってくる頃には結構な数が出来ていた。やはり前より多い気がする。

「親方、また早くなってません?」

「そうなんだよな。」

 リケから見ても早いということは、早くなっていることは間違いなさそうだ。

「刀とでは鎚の使いかたは違うが、ナイフにも応用できるような使い方を体が覚えたってことかも知れない。」

「なるほど。じゃあ、色んな武器を作ればどんどん早くなるかも知れないですね。親方は凄いなぁ……。」

 リケが何の気なしにそう言う。だが、俺は閃いていた。

 なるほど、種類の違う武器を作れば作るほど、チートでも性能が上がると言う可能性はあるな。今週は納品物に集中するとしても、次の2週間で試してみる価値はありそうだ。


 そんな気付きのあと、作業場の片付けをしていると、サーミャたちが戻ってきた。やや遅めだから、奥まで行ってきたか大物を捕らえたのだろう。

「おかえり。」

「おう、ただいま。」

「デカいのがかかったのか?」

「うん?ああ。イノシシの方だな。」

 いつもデカいのを捕らえた時にはテンションが高いサーミャが妙におとなしい。

「どうした?なんかあったか?」

「いや……。」

「大黒熊の痕跡があったんですよ。」

 歯切れの悪いサーミャに変わって、リディが答えた。

「熊かぁ。水汲みの時には気をつけないと。熊がすんなり入れないように、クルルの小屋にも柵をつけたほうが良いかも知れないな。」

 俺がそう言うと、今度はディアナが返してくる。

「帰りにサーミャとリディと話したところだと、ここに来るにはしばらくかかりそうってことだったけどね。」

「まぁ、急ぎでないなら一安心か。」

「そうね。前の時にはあなたが熊を倒したんですって?」

「ん?ああ、そうだな。」

 言うほど昔ではないはずだが、もう随分と昔のように感じる。

「サーミャはその時のことを思い出したのよ。それで……。」

「ああ。なるほど。」

 あれは今の所俺が一番ひどい傷を負った事件だったからな。単体の強さで言えば確実にホブゴブリンのほうが上だが、あれは支援もあったし、熊のときのほうが命の危険で言えば上だ。

 それに熊のときは傷ついた俺を直接見てるからな。ちょっとしたトラウマっぽくなっているんだろう。この辺はその後無事な俺を見てゆっくりと解決していって欲しい。


「ずっと森暮らしするんだし、危険な動物との接触は織り込んで考えていかないといけないな。」

「そうね。リディによれば、滅多なことでは近づかないってことだけど、普通なら畑を猪に荒らされたり、なんてことも考えられるわね。」

 ディアナの言葉を引き取るように、リディが頷く。

「ひとまずは俺も皆も気をつけよう。めったに魔物化しないとは言え、起こらないわけではないし、気が緩んだときが一番危ないからな。」

 俺の言葉に全員が頷く。森で暮らすと言うこと。自然と隣り合わせとはどういうことなのか、それを考えずにはいられなかった。

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