竜小屋の完成
翌日、起きて水を汲みに行く時、今日もクルルと一緒に向かう。クルルには今日昨日よりも多い水瓶の3/4ほどの水を運んでもらったが、まだまだ余裕そうだ。これなら一杯に入れても十分運べるだろう。
今日の作業は基本的に板を張っていくわけだが、大きさに合わせた板を切り出すところからだ。これは俺とサーミャが材木置場で行う。どんどん板を切り出していって、小屋までは他の3人とクルルが運んでいく。
クルルが運ぶときは板を口でくわえて、結構器用に持っていってくれるのだが、最初のうちディアナがやたらハラハラしていた。子供を見守る母親のようである。気持ちは分からんでもないが、多分そんなに心配しなくてもクルルは平気だと思うぞ。
チートで作った特注モデルのノコギリを使ったので、板はあっという間に量産できた。木材がそこそこ減ったが、なんだかんだで確保するあてはある。
それに今までだと少し遠くへ行って切り出してくる、なんてこともしなかったが、クルルに運んでもらえればそれもできる。どこかのタイミングで多めに確保しておくのはありだな。
作った板で壁を作っていく。凝ったことをするなら、柱に溝を掘って板をそこにはめ込むとかそういうことをしたほうが良いのだろうが、今回は急ぎでもあるし、普通に柱に板を打ち付けるだけにしている。
ただし、壁は完全に覆ってしまうのではなく、上の方は開けるようにする。屋根の庇がかかるようにするので、雨が直接は吹き込まないはずだ。
屋根自体も板葺きにするが、雨漏りなんかは雨の時に確認するしかない。板と板の端が被るようにはしていくので、おそらくそんなには漏れてこないはずだ。イメージ的には日本であった
あそこまで手間のかかることは出来ないが、同じようにすれば近い効果は得られるだろう。
バタバタと作っていったが、手分けの効果とチートも合わさって、日が沈む前にはなんとか形ができた。
柵やドアについては正体不明の賊が万一このあたりに来た場合も考えたが、人間(か獣人かドワーフかはたまたエルフかリザードマンか)であれば柵やドアを作ったところで意味はないし、クルルも賢いので別に作る必要もないだろうとみんなの意見が一致したので作らなかった。
前の世界みたいに繋いでおかないと違法なんてこともないので、完全に出入り自由の放し飼いということにはなる。
一応は小屋の体裁が整ってはいるが、やはりこう入れるだけ、といった風情ではある。十分時間が取れそうな時にここを物置に改築して、ちゃんとした畜舎(竜舎?)を別に作るのもいいなぁ……。
「クルル、今日からここがお前の部屋だ。」
ペタペタとクルルの首筋を軽く叩きながら言うと、
「クルルル。」
クルルは中に入ってぐるぐると周り、ごろりと横になると
「クー!」
と鳴いてフンスと鼻息を出した。気に入ったらしい。気に入ったんなら良かった。急ぎでも作ったかいがある。
「寝るときや、雨のときはここに入ってね。何かあったら家の壁を叩いてくれたらいいから。」
ディアナがクルルを撫でながら声をかける。クルルは言われた事がわかっているのか
「クルル。」
と返事をした。
なお、今回はディアナと離れていたので、俺の肩が無事であったことを併せてご報告差し上げたい。
夕食時、みんなで話し合って今後の予定を決めていく。次にカミロの店に卸しに行くのは12日後だから、日数的な余裕は若干あるものの、今のうちにやっておきたいことが山程あるのだ。
俺はとりあえず急務と思われる荷車の改造を今後4日ほどかけて行い、その間リケたちは通常の仕事――板金や一般モデルの制作、狩りや採取、畑の整備をして貰う。
俺は荷車の改造が終わり次第、普段の鍛冶の仕事に戻って、十分な数の製作ができたら残りの時間をまずリディのものになる部屋のドアとベッド製作に当てることにした。
もし間に合わなかったら、更に次の2週間の最初に作ることになる。今は客間があてがわれているので不便はないと思うが、家族としていつまでも客間と言うのも、俺としても心苦しいものがあるので、急ぎ目で作業したいところだ。
翌日もクルルと一緒に水汲みに向かった。今日は家から出るとそこでもう待っていたので、水瓶を渡してやった。来て3日程度だが、クルルの中でも習慣にはなってきたらしい。
今日は水瓶いっぱいに水を汲んでクルルに持たせたが、問題なく運んでいる。重い荷車を運んでも大丈夫だったのだし、これくらいは余裕か。
「今日もありがとな。」
「クルル。」
俺とクルルは連れ立って家への道を戻って行くのだった。
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