竜小屋建設開始
明けて翌日、朝一の水汲みに行こうとすると、クルルがもう起きていた。ウロウロするでもなく、座ったままじっとしている。もしかしたら魔力でも摂取しているのだろうか。
俺が近づくと、頭をゆっくりとこちらに向けた。
「おはようさん。一緒に水汲みに行くか?」
「クゥ。」
クルルはゆっくりと立ち上がる。
「おっ、じゃあちょっと待ってろ。」
俺は慌てて家に戻り、水汲み用の瓶をもう一つ持ってきて、クルルの首元からぶら下がるようにした。
「きつくないか?」
「クー。」
「よし、それじゃあ着いておいで。」
俺がそう言って先導すると、ゆっくりと後をついてくる。走竜に散歩がいるのかは分からないが、これから2週間は街へも行かないし、毎日こうやって多少なり運動させてやったほうが良いのかも知れない。とりあえずは今日往復して様子見だな。
いつもと同じくらいのペースで進んで、湖にたどり着いた。俺は顔を洗ったりするのをここで済ませてしまうことにする。5人で桶に並ぶと流石に狭いんだよな……。
ついでなのでクルルの体も改めて拭いてやった。ついでに目や鼻のあたりをチェックして、人間で言うところの目やにや鼻水が出てないかを確認する。特にそう言うものもなく、健康ではあるらしい。
そう言えば、走竜が風邪とかひいたらどうするんだろうな。専門の医者がいたりするんだろうか。
人里離れたここだと呼んで来るのも一苦労だからなあ。人間(獣人とドワーフとエルフ含む)が病気になったときのことも少しは考えておくべきか。
俺もクルルもさっぱりしたところで、水を瓶に汲んでいく。クルルに運んで貰う分はとりあえず瓶の半分くらいにしておいた。
「重くないか?」
「クルル。」
「じゃあ、今日はそれだけ頼むな。帰ろうか。」
クルルの様子を伺いながら家に戻るが、特にふらついたり立ち止まったりと言った様子はない。明日はもう少し運ぶ量を増やしてみるか。
「ご苦労さん。また明日も行こうな。」
「クー。」
クルルの首から瓶を下ろしてやる。明日も行くことを聞くと、心なしかクルルも嬉しそうにしているようなので、やはり毎日連れて行ってやるのが良さそうだ。
瓶を下ろしたクルルは昨日やった肉の残りを少し齧る。見てみると昨晩も今齧ったくらいしか食べてないようだ。
1食あたりであの量しか食べないとすると、明日までは余裕でもってしまうな。下手をすると人間より食う量が少ないんじゃなかろうか。恐るべしエコ生物。
クルルにまた後で、と言い残して俺は家の中に戻った。
朝飯やなんやかんやを終えて、今日の作業に入る。遅くとも1週間以内にはクルルの小屋を建ててやりたいところだ。文字通りの掘っ立て小屋だし、すぐに建てられるとは思うが。
中庭に面するところに柱を建てるための穴を掘っていく。道具は特注モデルに仕上げたショベルである。この辺りも土は固めだが、特注モデルと増強された筋力のおかげで早く穴が空いてくれた。
小屋の広さはクルルに来てもらっての現場合わせにした。クルルがゴロンと横になってもまだまだ余裕がある広さにしておいたので、そこそこ広い。
掘った穴に柱にする木を引っ張ってきて立てる。ロープを掛けて引っ張るのはクルルも手伝ってくれたので、かなり捗った。俺の筋力がいくら増強されているといっても、走竜みたいな”専門家”には敵わない、ということだ。
柱を立て終わると、今度は梁を渡していく。梁といっても立派なものではなく、最低限建造物としての構造を保てるようにするためのものではある。チートを使って噛み合わせを上手く作り、釘も併用して落っこちてこないように固定する。
屋根の棟木やらも組み上げると、小屋の外形が見えてきた。後はここに屋根板やら壁板やらを張っていくわけだが、その前に小屋の床に穴を掘った時に出た土を敷いて、周りの地面よりも少し高くしておく。
こうしておかないと、肝心の雨が降った時に水が流れ込んできてクルルが困ることになるからな。
作業自体は部屋を作った経験のあるサーミャ達もいるし、運搬はクルルがいる。リディも慣れないなりにちゃんと手伝ってくれたのでかなりスムーズに進んだ。
それでも普通に考えたらこんなペースで建築は無理だが、そこはチートさまさまというやつではある。
この日はここまでで日が暮れてきたので、板張りをするのはまた明日だ。俺はこの日の作業終了を皆に告げた。
作業後、体の汚れやなんかを落としてさっぱりした後、リディに聞いてみる。
「クルルが飯を食べる量がかなり少ないようなんだが、あれはやはり?」
「そうですね。この森の魔力は他と比べても多いですから、それでほぼ足りてるんだと思いますよ。」
「やっぱりそうか。」
後は飼われてたにせよ野生にせよ、やたらと賢い。細かいところまで理解しているかは不明だが、少なくとも何を言っているかまでは理解している。そもそもの希少性もさることながら、値が張るというのはそんな部分もかなりが占めるようには思う。
まぁ、それを省いても、もうかなり可愛く思えているのは事実だ。
家畜のための小屋と言うよりは新しい家族の部屋――掘っ立て小屋の離れではあるが――を作る気分になっている。
明日には完成させたいな。そんな事を思いながら、夕食の準備に取り掛かるのだった。
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