走竜

「走竜……?」

 俺は思わずカミロに聞いた。インストールの知識はこの世界の大まかな地理や常識を教えてくれても、生物なんかの細かいことは入ってなくて分からない。

「ああ。走とは言うが、実際にはドラゴンじゃなくて、トカゲに近いらしいんだがな。」

 デカいトカゲを竜と呼ぶのは前の世界でも似た感じではあったな。コモドオオトカゲもコモドドラゴンとか言ってたし。こっちの世界でも似たような感じなのだろう。


 ズングリムックリしたトカゲ、とは最初に思ったが、一番近いのは馬サイズのかみなり竜かも知れない。図鑑に載っている雷竜をもう少し丸っこく可愛らしくした感じ、というのが一番近いように思う。もしくは前の世界の西洋のドラゴンから翼を取り除いて可愛らしくした姿というか。

 鱗が前の世界のグリーンパイソンとかエメラルツリーボアみたいに綺麗なエメラルドグリーンで、可愛らしさに華を添えている。目はいわゆる爬虫類目だが、つぶらでクリクリしている。

 つまるところ、爬虫類を可愛いと思える人なら、相当に可愛いと思える外見をしていると言うことだ。

 うちの女性陣でも、少なくともディアナは爬虫類が苦手ということはないらしい。さっきから俺の肩が連続攻撃を食らっている。可愛いのはわかったから落ち着け。


「この子は何を食べるんだ?」

 姿からは草食っぽい感じを受ける。肉食だと肉を食いちぎるから、顎や首の筋肉が増えてあまり首が長くならない、みたいなことを聞いた記憶がある。

 ただ、こっちの世界の生物が前の世界のような進化をしたとは限らないからな。

 魔力なんてものもあるし、そもそも同じ進化をしてきたのならエルフや獣人、ドワーフが存在しないし、ドラゴン自体はいるって話もある。

「なんでも食べる。そう聞いて、ここに来てから肉や飼い葉なんかをやってるが、どっちも食べた。」

「そうか。」

 まさかの雑食である。うちの周りは森で草もあるし、肉の調達もできるから、食わせるものには困らないか。

 もしくは猫みたいに基本は肉食だが、植物も食べると言うことかも知れない。前の世界で豆苗やバジルを美味そうに食べる猫の動画を見たこがあるし。

 この辺は実際に与えて量を見ないと分からないだろうな。


 そうだ、量だ。食う量によってはサーミャやディアナの狩りを増やさないといけないし、カミロのところから飼い葉を仕入れることも必要になってくる。

「1回の食事でどれくらいの量を食べるんだ?」

「うーん、そんなに食わないって聞いていたんだが、ここに来てしばらくしてからもりもり食べるようになったな。」

「ふむ……」

 環境の変化によるストレスか何かで暴食してるのだろうか。でもそれなら元々食べるのが食わないのが普通だし、しばらくしてから食い始めたってのはつじつまが合わないな。

 そうやって俺が考え込んでいると、

「エイゾウさん、ちょっとお耳を。」

 と服の裾を引きながら、リディが声をかけてくる。

「ん?なんだ?」

 俺は素直に耳をリディに寄せた。リディがカミロには聞こえない声で耳打ちしてくる。

「走竜にはドラゴンの血が入っています。れっきとしたドラゴンの末裔ではあるんです。」

 ふむ。雑食だったりするのもそう言うところから来ているのか。

「それで、ドラゴンは魔力も食べます。足りない分は食事で補うので、おそらくはそう言うことかと。」

 そこまで話すと、リディは俺から離れた。


 なるほどね。都や街には魔力が少ない。リディ達エルフが都や街に定住しないのは定期的に魔力を摂取する必要があるが、魔力が薄くてそれが出来ないからだ。

 都ほどでかいところで走竜を見なかったのも魔力が薄いと餌をじゃんじゃん食べるから、それなら荷曳き馬なりを飼ったほうがコストパフォーマンスがいいってことで、飼う家がほとんど無いに違いない。


 逆に言えば、うちなら魔力問題は解決だ。周囲の獣が寄らないくらいに濃いのだから、餌が要らない可能性もある。

 きっと元々飼われていたか捕獲されたかした場所は、そこそこに魔力の濃い場所で、それが薄いところに来たから、魔力が不足してきて食べるようになったのだろう。

 それなら、うちで飼うには都合の悪いことはないな。


「最後の質問だが、お前のところでは飼わないのか?」

「ああ。うちの規模で1頭だけ走竜がいても仕方ないし、長い距離を常に行き来するには走竜はちょっと目立つからな。」

 カミロの言う目立つ、は見た目もそうだが餌代が半端なくかかるという認識から見れば、維持できるだけの金を持っていることを示してしまう意味も含んでるな。

 一介の鍛冶屋がそんなのを飼ってるのは不自然ではあるんだろうが、せいぜい1~2週間に1回街と家を往復するだけなら目撃される時間そのものは少ない。

 興味を持って調べるやつがいても、このところメキメキと頭角を現している商人と伯爵と関係がある鍛冶屋なんて怪しすぎて手を出そうとは思うまい。


「よし、じゃあうちで飼うよ。」

「まいどあり。値が張るが、いいな?」

「ああ。」

 今の我が家は懐が暖かいのだ。伯爵閣下から頂いた金貨がかなりあるからな。

「よし、それじゃあ売った。金は次来るときでいい。」

「あ、次に来るのは2週間後にしようと思うんだが、かまわないか?」

「かまわんよ。来るんだろ?」

「ああ。じゃあ、その時に金を用意しておくよ。」

「わかった。俺はお前らの荷車を繋げるように言ってくるわ。」

「頼んだ。」

 そしてカミロは倉庫の方に歩いていった。

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