増える家族

 翌朝、朝の支度と拝礼を終えたら、湖へ獲物を引き上げに向かう。前にリディがいた時と同じように5人だ。一度やっていることもあってか、スムーズに鹿を引き上げることが出来た。

 女性としては筋力のある3人とは言え、3人の時はこうスムーズにはいかなかっただろう。苦労が偲ばれるな。


 家まで運び終えたら後はいつも通りだが、今回はリディにナイフに慣れてもらうためにも俺は手伝わずに、サーミャとリケとリディの3人で解体してもらう。俺とディアナは処理の済んだ肉から家に運んだり、不要な骨やなんかを片付けたりだ。

「このナイフは本当によく切れるのですね。」

 ぼそりと、しかしはっきり聞こえる声でリディが言う。

「でしょう!親方の特注品は凄いんですから!」

 誇らしげに自慢するのは俺でなくリケだ。もうこう言うのも定番の光景になりつつあるな。

 ちゃんと作ったものを褒められるのは悪い気はしないが、気恥ずかしさはまだまだ抜けない。俺も自分の作ったものに対して、俺が作ったと心の底から言えるようになっていければ良いんだがな。


 獲物が無事に肉となったので、昼食はその肉と果実漬けのブランデーで焼き肉っぽい感じのものを作った。うちの肉食系女子(物理)には相変わらず好評である。リディも特に嫌がったりはせずに美味しそうに食べていたから、好みの味ではあるようだ。

 今度からちょっと特別な時はこっちを出していこうかな。


 昼食を終えたら思い思いのことをして過ごす時間である。俺は納品物製作のために、リケはリディと一緒に勉強のために鍛冶場で作業するので、時間が短いだけでやっていることは昨日とさして変わらない。

 サーミャとディアナは剣の稽古をするらしい。サーミャがディアナに弓を、ディアナがサーミャに剣を教えることで、いざと言うときの底上げを図っているのだ……とディアナに説明を受けた。

 家に帰る直前にカミロから聞いた話を考えると、そうしてもらえるのはちょうど都合のいい話だし、今後街道を行き来するときに、少しでも無事に帰還できる確率をあげるためにも頑張って欲しい。

 この日は俺はそこそこの数のナイフを作って作業を終えた。リケは前よりもこめられる魔力の量が増えてきているらしい。

 これは俺もそろそろ高級モデル製作からも引退だろうか。冗談めかしてそう言うと、

「いえ、素材を最大限活かすところまでは全然出来てませんので。」

 と真面目くさった顔でリケに言われた。それじゃあ、俺も追いつかれないように頑張らないといけないと思うが、俺のはチートだからな……。


 その後の2日間は俺はサーミャとディアナに注型までやってもらって、残りを俺が仕上げる方式で高級モデルのショートソードとロングソードを製作した。

 サーミャとディアナの手際がこの何日間かでまた良くなっているような気がする。大量生産の時に掴んだコツをものにしているようだ。

 これなら時折手伝ってくれると助かるな。手の空いているときにでも注型してバリを取るところまでをどんどん作っておいてくれると、後で俺かリケが仕上げるだけで済むようになる。

 そうすれば週に1日くらいは完全に手が空く日が作れて、休日にできるわけだ。夢が広がるな。

 その間、リケとリディはと言うと、少し魔力の勉強はお休みにして、中庭の畑の整備をしてくれるそうなので、お願いしておいた。いつもいつもすまないねぇ。


 そうしてカミロの店に卸しに行く日が来た。10日でリケが作った在庫は結構な数になっている。リケも一般モデルの製作速度に関しては、かなりのところまで来ていたからなぁ。

 それらを積んで、荷車を引いていく。いつも通り、俺とリケの仕事だ。他の3人には例の謎の賊の話をして、周囲の警戒をいつもより強めにしてもらう。賊が森に入り込んでいる可能性もなくはないし。


「そう言えば、人を襲うけど大きな被害は何もない、ってのはとっ捕まえた後どうするんだろうな。」

 荷車を引きながら俺は疑問を口にした。聞いた話だけなら賊は特に困るような被害は出していないのだ。

「襲ったと言うなら、多少の怪我くらいはさせてるだろうし、そっちの処罰は受けるんじゃないかしら。とは言っても街で酔って暴れて喧嘩したのと変わらないような被害だったら、1日か2日牢屋に入って終わりでしょうね。」

 ディアナがその疑問に答えてくれた。なるほど暴行には問われるのか。でもそんなことしょっちゅうなのか、刑罰も軽いみたいだ。

「じゃあ探してる割には捕まえても大した罰は与えられないと。」

「今の所は賊の目的が分からないからなんとも言えないけど、そうでしょうね。」

「なるほど。」

 とは言えそれで街道を行き来する人が減れば流通に関わってくる。マリウスは遠征から戻って早々の問題発生で大変だろうが、頑張って欲しいところだ。


 目が増えたおかげなのか、街の衛兵隊の仕事のおかげなのか、はたまた賊が捕まったためか、街までは特に何事も無く到着することが出来た。

 入り口で番をしているのは何度か見かけたことのある衛兵さんだ。エルフのリディを見てちょっと驚いた顔をしたが、それ以上特に何も言ってこなかった。

 賊の対応で忙しかったりするんだろうな。増援を頼もうにも遠征に出てしまっていたし。もう少ししたら増援も来るかも知れないから、それまでの辛抱だ。俺たちは会釈してそこを通り過ぎた。


 街をカミロの店に向かって行くが、道中やはりリディが注目を集めてしまう。2週間に1回でも、定期的にやってくればそのうち町の住民は見慣れるだろうか。そうであることを願いたい。

 特にちょっかいをかけてくる輩もいなかったので、無事にカミロの店にはたどり着いた。これまたいつも通りに倉庫に荷車を入れて、店員さんに声をかけ、商談室に向かう。


 少ししてカミロ(と番頭さん)がやってきた。

「おう、久しぶり……ってわけでもないか。」

「こないだお前の馬車に乗っけてもらったからな。ここで会うのは久しぶりだが。」

「モノはいつものとおりに?」

「ああ。ちょっと数にバラつきがある。”普通の”が多めだ。」

「なるほど。それでも問題ないよ。」

 カミロがチラッと番頭さんのほうを見ると、番頭さんは頷いて部屋を出ていく。納品の手続きをしに行ったのだ。


「賊はまだ捕まってないのか。」

 いつもの世間話の途中で俺はカミロに尋ねた。これで捕まってくれていれば帰りは少し楽だが、衛兵さんの様子から察するにまだだろうな。

「ああ。俺もあれから2回ほど都と往復したが、出くわさなかったんで、もしかしてと思って伯爵に聞いたら、まだだと言われた。」

「そうか……」

 予想通りではあるが、帰りはまだリスクが残っているというわけだな。気をつけて帰らないと。

「で、だな。」

 カミロが立ち上がりながら言う。

「ちょっとついてきてくれ。」

「ん?ああ。」

 俺たちも立ち上がってゾロゾロと先導するカミロについていく。


「前に馬が欲しいって言ってたろ?」

 歩きながらカミロが言う。向かっている先は倉庫ではないようだが、どこだろう。

「ああ。流石にそろそろ人力で引いてくるのも限界だと思ってな。用意できたのか?」

「まぁ、そんなところだな。」

 そう言うカミロについていくと、店の裏手にある庭のようなところに出た。ここは表からも倉庫側からも見えにくいところになっていて、おそらく普段は入荷した荷物を一時的においておいたりするところなのだろう。


 おそらく普段はと言ったのにはわけがある。そこにはちょっと普通ではないものの姿があったからだ。

「馬じゃないがこいつを用意した。走竜だ。」

 カミロが自慢げに言う。そこにはずんぐりむっくりしたトカゲのような生き物――カミロが言うところの走竜が

「クルルル……」

 と小さな声をあげながら、こちらをつぶらな瞳で見ていた。

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