竜車
カミロが倉庫に向かって、その場に残った俺達は新しく家族になった走竜を見ている。
「触ってもいいのかな?」
ディアナがおずおずと聞いてくる。
「うちの家族になったんだし、いいんじゃないか?」
俺がそう言うと、ディアナはそっと走竜に近づいていく。走竜はその様子を見ているが、特に身を引いて警戒したりする様子はない。
ディアナの手が走竜の肩の辺りに触れたが、やはり走竜はその様子を見ているだけだ。
「わ、温かい。」
見た目は完全に爬虫類なのだが、温かいのか。ディアナがそのまま肩の辺りを撫でていると、走竜が首をぐいっと動かした。
気に入らないことでもあったかと思ったが、走竜はむしろディアナの肩に頭を擦り付けている。やられていることのお返しをしているような、そんな感じに見える。
そのままディアナが頭を撫でると、走竜は目を細めて
「クルルゥ。」
と鳴いた。それを聞いたディアナの目尻が地面につくんじゃないかと思うくらい下がっている。
人に触られても嫌がっている様子は全く無いな。走竜という生き物自体が人懐こいのか、それともこの子が特別人懐こいのかは分からないが、こうやって触れられるのがストレスにならないのは助かる。
ディアナが触って大丈夫そうだと分かると、他の3人もおずおずとだが触りに行った。やはり走竜は嫌そうにはしない。触っている人に頭を擦り付けたり、小さく鳴いたりするだけだ。
俺も首筋を撫でてみる。触ると確かに温かみを感じる。普通の爬虫類なんかとは全然違うのに、触り心地は蛇のそれに近くてスベスベだ。しばらく撫でていると、俺の頭に自分の頭を擦り付けて、「クルル」と鳴いていた。
やがてカミロが戻ってきて、繋げる準備が出来たと言う。
「とは言っても、お前らが家に帰るまで持てばいいってくらいのものだから、家に着いたらちゃんとしてやれよ。」
「分かった。」
ちょうど板バネを装備した荷車に改装したいと思っていたし、修繕も必要だったので都合は良いな。
「装具はおまけしといてやるよ。」
「おう、助かるよ。」
カミロの店の店員さんがおそらくは馬用のだろうと思うが、荷車とつなぐための装具を走竜に装着していく。このやり方は覚えておこう。
とは言っても、見ているとめちゃくちゃ複雑なわけではない。最初の1~2回は俺達も手間取るとは思うが、すぐに慣れるだろう。ふと見ると他の4人も真剣に店員さんの作業を見ていた。
倉庫の方に走竜を引っ張って行き、人間が引くための取っ手の横棒が除去され、無理やりだが走竜とつなぐための棒が2本延長されていた。なるほど、こりゃあ急ごしらえだな。
走竜の後ろから覆いかぶさるようにして荷車を持っていき、走竜の装具と接続する。これで簡易の馬車ならぬ竜車の完成だ。御者台はなく、荷車の荷台に置かれた箱に座って操縦することになる。
今日の御者はリケだ。実家で馬車を操ったことがあるのは彼女だけだし、俺もチートの範疇には含まれていないだろうからな。家に帰ったら折をみて皆練習したほうがいいんだろうな。
カミロから今日の売上を受け取り、買った品物を荷車に積み込んだら、全員で乗り込む。リケが手綱を走竜の体に当てると、「クー」と一声鳴いて、ゆっくりと歩き出した。流石に重いのか最初はグッと力を入れる感じだったが、動き始めたら足取りが軽やかになってきた。
進んでいく車の上から俺はカミロに手を振って別れを告げる。いつもは俺が荷車を引いているから、この光景は新鮮だ。これからはたびたび目にする光景にはなるのだろうが、なかなかに感慨深いものはある。
街の中をゆっくりと竜車が進んでいく。やはり珍しいのか、注目を集めている。少し面白いのは、走竜を見て一瞬驚いた顔をした後、リディを見ると納得した顔をするやつが結構いることだ。
おそらくはエルフくらい珍しいと、走竜を立てた竜車に乗っているのもおかしくない、と言うことだろう。納得して余計な詮索をしないでいてくれるなら、それに越したことはない。
街から街道に出ると、リケが少し速度を上げさせた。荷車の揺れがそれにつれて酷くなる。耐えられない程ではないが、やはり早めに板バネ式のサスペンションを搭載して快適にしたいところだ。
乗り心地はよくないが、快適な速度で進んでいるのでだいぶ気が紛れている。
「楽だな。」
「そうねぇ。歩かなくて済む、っていうのは乗り心地を別にしても楽は楽ね。」
「あとはこの子がどれくらい物を運べるかですね。」
リディがディアナに続けて言う。
「少なくとも人が2人で運べる量に、俺達が乗った分は余裕ってことだな。」
それを受けて俺は答えたが、まだまだ余裕があるのか、それとも限界なのかは試さないことには分からない。わざわざデッドウェイトを運ばせる気にはならないので、どこかで試す機会が出たら、と言うことにしよう。
そんな事を話している間に、森の入口へ辿り着く。俺とリケの2人で荷車を引いていた時と比べて倍近く早い。この分だと家に着くのもかなり早くなりそうだな。
そんな事を思いながら、竜車は森の中へ入っていった。
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