死闘

「最奥部はこの奥だ!」

 隊長が俺とリディさんに声を掛ける。広間の端に入り口のようなものがある。

「2人ここで守れ!俺たちは中に入る!」

 兵士は頷くと、入り口の横に1人ずつサッとついた。露払いをしてくれているときも思ったが、この隊は全体でも練度が高いほうなのだろうか。

 まぁ、そうでないとリディさんを連れてくる護衛にはしないか。彼女は決戦兵器でもあるわけだし、道中で失われたら意味がないものな。


 入り口に飛び込むようにして入ると、さっきほどの広さではないが、なかなかの広さの空間に出た。俺たちの前に兵士達が展開する。

 松明に照らされたそこには、多数のゴブリンと、そのゴブリンを遥かに大きくしたようなゴブリンがいた。

 俺も身長が高い方ではないが、俺よりも背が高い。だが、外見はゴブリンを筋肉質にしたくらいなもので、衣服を身に着けていないのも、特に武装もしていないのも普通のゴブリンと変わらない。あれが親玉だな。ホブゴブリンとでも呼ぶか。

「俺たちは周りの雑魚を片付けるから、アンタ達は親玉を頼む!」

「おおよ!」

 隊長の怒鳴り声に、俺も負けじと怒鳴り返す。いよいよだ。俺は槍の柄をギュッと握りしめた。


 隊長たちが自分の言葉通り、ホブゴブリンの周りのゴブリンを蹴散らしていく。隊長は一刀で切り捨てているが、他の兵士達は少し手間取っている。

 ホブゴブリンもボーっとしているわけではなく、兵士にゴブリンと共に襲いかかろうとしていて、自分の相対している敵を片付けた兵士や、俺が援護して辛うじて事なきを得ている。

 なるほど、昨日はこれで攻めあぐねて撤退したんだな。今日と違って昨日はまだ数もいただろうし。俺達とホブゴブリンの間にもゴブリンは多数いて、まだホブゴブリンと腰を据えて戦える状況にはない。


 それにしてもデカいのにホブゴブリンは動きが素早い。何度かゴブリン越しに攻撃を加えられないかと試したが、多少傷つけはするものの、その状況ではなかなか致命傷が与えられない。

 然るべき場所に当たれば、この槍なら相手の皮膚が多少硬かろうとやすやすと貫くが、当たらなければどう仕様もない。もどかしいが、道ができた時に素早く接敵できる位置でチャンスを伺おう。


 そうやって戦っている間にゴブリンは数を減らし、隊長達がゴブリンを抑え込んで、俺達とホブゴブリンとの間に道ができた。俺とリディさんはホブゴブリンに接近していく。

 2対1。数的にはこちらが有利だが、だからと言ってこの槍をブスッと刺してハイ終わりというわけにはいかないだろうな。


 ゴブリンとホブゴブリンを引き離すべく、俺はホブゴブリンに向かって槍を突き出す。ホブゴブリンは予想に違わず素早くそれを避けた。それに負けず劣らずの速度で俺は槍を引き戻して再び突く。当たるとは思っていない。ホブゴブリンも距離をとってそれをかわす。

 これを繰り返して、俺はホブゴブリンとゴブリンとの距離を稼いでいった。合間合間にホブゴブリンも攻撃をしてくる。俺を狙う分には最悪多少食らったところで、と思うが、リディさんに目標が向かった場合にはそうはいかないし、こっちに気がついたゴブリンの妨害もあるので必死に防衛しなければならない。

 戦闘のチートもつけてくれたのは大正解だったな……。このチートがなかったら人を守りつつ、敵をあしらっていくなんて芸当できそうにない。俺は心の中であの時の彼女(?)に礼を言っておく。笑うような「どういたしまして」という声が聞こえた気がした。


 やがてゴブリン達の邪魔が入らない距離までホブゴブリンを引き離した。そろそろリディさんの出番だな。

「これから何をしたらいいんです?」

 ホブゴブリンの攻撃を凌ぎつつ、リディさんに指示を仰ぐ。一応仕留められないかやってみるが、リディさんを気にしながらなのでなかなか難しい。

「エイゾウさんは魔物の動きをなるべく抑えててください。その間に準備をします。合図をしたら伏せてください。」

 ハッキリした声でリディさんが答えた。俺は頷いて了解の意を伝える。だが、倒してしまっても構わんのだろう?という一言を言いかけて飲み込んだ。よくよく見るとさっき傷つけた箇所の傷がもう塞がっている。これはもしや――

「魔力で回復するのか!」

 俺は思わずそう言った。今度はリディさんが頷く。

「純粋な魔力では回復しないのですが、澱んだ魔力があれば回復します。」

 兵士がゴブリンを倒すのに手間取っている理由や、昨日大人数で来たにも関わらずホブゴブリンを仕留められなかった本当の理由はそれか。めちゃくちゃ厄介だな。


 だがボヤいても仕方がない。俺はリディさんの準備が終わるまで、ホブゴブリンの相手をしなければいけない。仕留めるつもりで槍を繰り出すが、素早いし回復するしで、なかなかそれは難しそうである。熊とは違うよなそりゃ。であれば手数を増やして他のことを出来ないようにするまでだ。

 俺は狙いは二の次にして、とにかく手数だけを重視して槍を突いていく。時折はホブゴブリンの体に当たって傷をつけるが、それもそんなに経たないうちに塞がってしまう。

 ホブゴブリンもやられっぱなしではなく、俺に集中して攻撃してくる。2~3度リディさんを狙った時に、当たればそれで終わっているような攻撃を俺が加えたからだろう。感情があるかは知らないが、さぞかしヒヤッとしたことと思う。少なくとも学習能力はあるらしい。

 槍を突いて多少のスキがあるところを肉薄して蹴りを放ってくる。ゴウと言う音がするほどに鋭い蹴りで、当たれば少なくとも戦闘を続行できるような状態ではなくなるだろう。俺は体を捻ってそれをかわしつつ、引き戻した槍を繰り出したりもするが、これもかわされた。


 そうやってどれくらい経っただろうか。ずっと命のやり取りをしているので、正確な時間は分からない。少なくとも四半時程は経っているだろう頃合いで、リディさんが叫んだ。

「伏せてください!」


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