戦い

「親玉かなんかを倒さないといけないってのは、一体どうしてなんだ?」

 俺は隊長に聞いた。

「魔物とは澱んだ魔力の塊です。」

 答えたのは隊長ではなく、リディさんだ。静かだが、はっきりとした声である。

「澱んだ魔力からは魔物が生まれます。」

「生き物、ってわけではない?」

「はい。竜や魔族達、あるいは元々命あるものが魔物になった場合はともかく、魔力から生まれた魔物は我々のように生きているわけではありません。魔力から生まれて、ただただ増える。そして命あるものに対して襲いかかるのです。」

 まるで、前の世界のコンピュータゲームに出てくる敵モンスターのようだ。どういう生活をしているかは分からず、ただ無限に出現し襲いかかる。


「倒したらどうなるんです?」

「身に宿した魔力ごと消えます。命あるものがなった場合は体が残りますが、魔力は消えてしまいます。」

 前に倒した熊が魔物だったかどうかは分からない、ってことだな。魔力から生まれたものでないのは間違いないが。

 魔力はなにかエネルギーのようなものだと思っていたが、どうやらちょっと違うらしい。少なくとも保存則がきくようなものではない。存在していたのに消えるエネルギーなんて不思議すぎる。

「親玉を倒さないと、その魔力から魔物が生まれる。生まれた魔物の魔力を元に更に魔物が生まれる。」

「ええ。」

「それじゃあ、放っておくと際限なく増えるじゃないですか。」

 ねずみ算ならぬ魔物算だ。

「そうですね。普通はほんの少しずつしか湧いてこないのですが、なんらかのきっかけで大量の魔物が湧いてくると、大変なことになります。それが少し前に起きました。ここで。」

「えっ。」

 今サラッとヘビーそうなことを言ったな。気にはなるが深追いはしないでおく。

「それは辛うじて撃退したのですが、少し魔物が残ってしまいました。しばらくは私達で増えないようにだけはしていましたが、全てを倒せずにいるうちに、また同じことが起こりそうだったので討伐隊を派遣してもらったんです。」

「なるほど。」

 エルフは親玉を倒せるが、たどり着くまでの道が作れない。討伐軍はたどり着くまでの道は作れるが、親玉を倒せない。お互いをフォローしあって殲滅しましょう、と言うことか。


 そんな事を話しているうちに、戦闘の音がかなり大きくなってきた。松明の明かりがゆらめくのが見え、剣のものだろう、反射する光がこちらにも飛び込んでくる。そこが少し広間のようになっているらしい。ここから見える限りでは大混戦だ。

「よし、あんたはエルフのお嬢さんをしっかり守れよ!」

 隊長が大声で俺に言ってくる。

「言われなくても合点承知!!」

 俺は負けず劣らずデカい声で怒鳴り返し、槍を構えてリディさんを背後に匿う。兵士達が俺たちの前に出ていって露払いを始めた。


 いよいよ戦闘の真っ只中に突入すると、ここの魔物の姿が松明の明かりの中で見えるようになる。

 こう言うとリケに怒られるかも知れないが、ドワーフぐらいの背丈で緑の肌。頭には毛がなく、突き出した鼻にらんらんと黄色に輝く目。細い枯れ枝のようなアンバランスな手足が体から伸びている。

 俺の知識の中で1番近いものをあげるならゴブリンだ。ただ、俺の知っているゴブリンだともう少し文明的と言うか、被服を纏っていたり、ちょっとした武装をしているものだが、こいつらは身に何一つ纏っておらず、武器も長く伸びた爪と、乱ぐい歯になった牙で、ほぼ獣同然に見える。

 そいつらが兵士に飛びかかったりするものの、大半は防がれて逆襲を食らっている。切り捨てられたゴブリンは血しぶきなどは上げず、倒れるとそのまま黒い灰のようになって消えていく。なるほどこれは生き物ではないな……。

 時折飛びかかられて間合いを見誤ったのか、兵士が勢いよく振った剣が空振り、地面の岩に強く叩きつけられたりもしている。確かにあれは歪むし欠けるな。戻ったら直せるやつはきっちり直してやろう。


 前は兵士達が露払いしてくれているので、俺はリディさんを守りながら、背後を重点的に警戒しつつ先へ進む。途中、兵士達の隙間をすり抜けて来たのか、ゴブリンが1匹近づいてきた。

 兵士達には当てないように手にした槍を突き出すと、狙いあやまたずに穂先はゴブリンの体の中心を捉えてスルリと入り込んでいく。

 さっき見た実体のなさと、手に伝わる感触が一致しなくて実に気持ちが悪い。特注モデルと同等の性能とは言え、若干は肉に刺さる感触があるからだ。

 素早く槍を抜くと、ゴブリンは倒れるより前に消え去っていった。後には何も残らない。


 そうして広間を横断するだけで、4匹ほどのゴブリンを屠った。兵士達も怪我をしているものはいるが概ね無事であり、ゴブリン達はその数をかなり減らしている。

 その戦闘を背後に、俺達は洞窟の最奥部、ボスの待ち構えるところに飛び込んでいった。

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