初日のお仕事
火床に突っ込んだロングソードだが、加熱しないといけないと言うことは相当歪んでいるということだ。普通こう言うのはちゃんと直そうと思うと非常に時間がかかるものなのだが、今回はチートに頼ってしまうことにする。
歪んでいるところだけを熱して、歪みを戻すのに必要な温度まで上げていく。しかし相当に歪んでいるな。どういう使い方したんだこれ。突き刺した後、抜けなくて馬鹿力でこじったとかだろうか。そうだとしたらドワーフか獣人、リザードマン辺りの仕業か。
温度が上がったので、歪みを叩いて取っていく。こうやって直せるところまで温度を上げて柔らかくしてしまうと、再度焼入れしても元のようにはならないのだが、そこはさっき確認したことが活きてくる。
叩いて直しつつ、少しずつ魔力を織り交ぜて、再焼入れした時に周りと同じ硬さになるように調整するのだ。その塩梅は勿論チートで掴んでやっていく。こうして一部にだけ多く魔力を纏った剣のその分を焼入れ、焼戻しをして磨くと、見た目にも性能的にもほとんど元通りのロングソードが復活した。
ただ、切れ味が同じと言うだけで、同じ場所でこじったりした場合には当然ここだけ魔力が含まれているので、多少強度が増していることが分かるし、見る人が見れば補修に魔力を使ったことはバレるだろう。
しかし、全体に魔力を入れてしまうと高級モデル以上にならざるを得ないからなぁ。今はこの補修で良しとしよう。
他の歪みの少ないロングソードと、盾については熱したりせずにそのまま叩いて直す。盾は多少
刃の欠けが大きめのロングソードは応急として研ぎだけ行うことにした。あんまり大きいなら鉄片を継いで直す必要があるかも知れない。普通ならやらないが、戦地での応急処置だから十分ではあろう。
今回持ち込まれた中には無かったものの、大きな亀裂の入ったもの、折れてしまったものがあれば、それらは修理されずに廃棄となる。修理できるかどうかのチェックは俺が判断するので、今回はそこまでいった武具はなかったことになる。
さっきの大きく歪んだやつも修復不能、としても良かったのだが、今回はさっきやった方法が上手くいくかの確認もあったので、こう言ってはなんだが「ついで」ではある。
1つだけ言い訳をするなら、手早く修復する手法を確立しておくことで、最悪予備のロングソードが無くなってしまった場合でも、歪んだものを修復して使ってもらうことが出来るように、と言う狙いはある。……いやほんとに。
一通りの作業が終わったので、預かっていた書類を持って指揮所に向かう。もうお日さまも今日の仕事を終えるために、最後の一仕事の世界をオレンジに染める仕事をしていて、その中を夜に備えて篝火を用意する兵士達がうろちょろしている。ちょっと急がなきゃな。飯も食いっぱぐれちまう。
指揮書の天幕に入ると、マリウスとルロイ、他に何人かの兵士があれこれと話し合っていた。明日の本格的な討伐戦に向けての作戦会議を延々としているのだろう。
片隅の簡易机で何やら書類と格闘しているフレデリカ嬢を見つけた俺は、書類をフレデリカ嬢に差し出した。
「今日の分は終わりましたよ。」
「さすがエイゾウさん、早いのです。」
「今日はものも少なかったですからね。」
フレデリカ嬢は書類の一覧を指さしながら言う。
「ここにあるものは全部です?」
「ええ。修復不可能なものはありませんでした。」
「わかりましたです。後で兵士に取りに行かせますです。今日はお疲れ様でしたです。」
「それでは失礼します。」
フレデリカ嬢に一礼して天幕を出ようとする時に、チラッとマリウスの方を見ると目が合ったので会釈をすると、一瞬だが珍しいものを見た、と言う顔をした。そりゃこう言うところで一介の鍛冶屋が伯爵に気安く「調子はどうだい?」とか言えるわけがなかろう。
出張所に戻って、後片付けをする。パパっと片付けが終わってしまったので、どうしたものかと思っているところに、丁度よく兵士さんが直した武具を引き取りに来たので、「ご苦労さんです」と言って引き渡す。
これで今日の仕事は完全に完了だな。おやっさんの所へ行って、飯食って寝よう。
辺りには夜の帳が降りはじめていて、暗がりを篝火が照らす中、おやっさんのところ――つまり調理場の方へ行くと、チラホラと兵士の人達も遅めの夕食を摂っている。シフト交代のタイミングで食いに来てるのだろうか。
補給隊も俺とフレデリカ嬢の他はもう食い終わったそうなので、フレデリカ嬢には悪いが先に頂いてしまうとするか。
今日のメニューはやはり干し肉を煮込んだものではあるが、少し根菜やジャガイモっぽい芋などと煮込んだシチューに近いものであった。
そう、芋である。うちの庭に植えて育ってくれれば大変に助かるであろう作物の芋。これは遠征から帰ったらおやっさんに仕入先を確認せねばなるまい。
そう決意しながら、おやっさん達の作ったなかなかに美味いシチューを俺は頬張った。
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