出立

 帰ってから6日間、俺達は至って普通に過ごしていた。いつもの通りのスケジュールで製作をしたり、狩りをしたり、飯を食ったりだ。なのでいつも通り1週間分の数を作って終わっておく。効率の良い作り方は分かったが、別に必要のないときまでそうする必要はないしな。

 前にも1度それなりの期間家を空けたことがあるし、みんなの反応的にはお父さんがちょっと出張してくるくらいの感じである。特にやたら心配したりとかはない。


 納品をする日の朝、いつもの通り納品物を積み込んだあと、愛用の金槌や念の為の干し肉、包帯代わりの布切れ(一応煮沸消毒済み)なんかを愛用の背負い袋に詰め込んで、納品後の出立にも備える。一通りは向こう持ち……前の世界で言えばアゴ、アシ、マクラ付きではある。そうは言ってもレベルがぜんぜん違うが。あとはギャラの問題だが、これは向こうで直接マリウスに交渉できればと思う。


 いつも通りに街に向かう。森の中も街道も十分に警戒をしながら進む。特に何事もなくカミロの店に着くことが出来た。毎度特筆すべき事は起きない(鹿や猪に出くわすがすぐに向こうが逃げたり、こっちが避けたり、街道で隊商と出会ったりと言ったくらいのことはよくある)が、こう言うのは警戒を怠った途端に問題が起きるものなので、いつであっても警戒は怠れない。


 カミロの店に着いた後も基本的には普段どおりだ。納品物の確認と購入物の確認くらいだが、今回は俺が遠出して次の納品には来ないから、購入物は1週間分ではなく2週間分になるのが大きな違いではあるが。一通りのやり取りが終わったら、いよいよ出発だ。馬と粘土についてはまた今度になる。おそらくは早くても2週間後だろう。どのみち今もらってもな、と言うところではある。粘土の在庫については、ナイフメインで作るように言ってあるから、なんとかもつだろうし、万が一無くなったらナイフだけでもいいとは言ってある。


「それじゃあ行くか。」

 話が終わるとカミロが促す。

「そうだな。じゃあ行くか。」

 全員で部屋を出て倉庫の方に行く。荷物を積んだうちの荷車の前に、カミロの店の荷馬車が前に馬を2頭、後ろにうちの荷車を繋いだ状態で置いてあった。

「途中まではうちの馬車で引くよ。都の帰りにそこそこの荷物載せていくから、これくらいなら平気だろ。」

 とのことだったので、遠慮なくお言葉に甘えておくことにする。俺たちは全員自分たちの荷車に乗り込んだ。程なくして連結馬車は出発する。ガタゴトと揺れながら、いつもより遥かに高い視線で街中をのんびりと進む。まだそんなに速度がないのは重いというよりは、まだ街中なのでスピードを出すと危ないからだろう。


「やっぱり馬が牽いてくれると便利だな。」

「そうですねぇ。」

 のんびりと変わりゆく町並みの風景を見ながら俺がそう言うと、リケが返してきた。馬を調達するということをカミロに話した後、そう言えば御者を忘れてたなと思っていたら、リケが多少扱えるらしい。実家の工房で納入に行く際にはそこそこの大きさの馬車を使っていたらしく、たまにリケが御者をしていたそうだ。家で馬の世話もしていたらしい。

 よく考えれば、複数の家族が総出で鍛冶仕事してたら、納入もそれなりの数になるわけで、いかにドワーフが力持ち揃いでも荷車を自分達で引くのは効率が悪いだろう。荷馬車を使うのが自然である。なので、とりあえずは馬が来てもひとまずは慌てなくても済みそうだ。


 街を出る時に顔見知りの衛兵さんに手を振って挨拶すると、向こうも手を振ってくれた。今日もまだハルバードではないが、おそらくは討伐部隊のほうであんまりこっちに手が回ってないんだろう。それも合わせると、さっさとカタをつけて帰ってこられるように俺も積極的に協力したいところだ。


 街道に出ると馬車の速度が上がる。急なカーブなどはないので、思ったより速い速度だ。少なくとも歩く速度よりはかなり速い。

 前に都から帰ってくる時に乗った時は荷がほとんど俺(とディアナ)だけだったから速かったのだろうと思っていたのだが、それよりかなり重くても、関係なしに早く進むことができるようだ。森の中ではこの速度は出せないだろうが、それでも楽だし速度も早いだろう。もっと早くに導入しておけばよかったな。


 いつもよりかなり早い時間に森の入口に到着した。うちの面々とはここで一旦お別れだ。これから1週間ほどについて再確認したら、軽くハグをして「行ってきます」だ。別に今生の別れでもないしな。うちの荷車を分離したカミロの荷馬車に乗り込んで、振り返ると森の入口でみんなが見送っていたので、軽く手を振っておいた。


 引く荷がだいぶ軽くなった馬たちは意気揚々と街道を都に向かって走る。都から帰ってきた時は荷物も少なかったので1頭立てだったが、今回は2頭立てだからというのもあるのか、あの時と比しても速いように思う。前の帰りに見た景色がややエキサイティングな流れ方をしているし。


 そして、ひょっとしたら二度と見ることはないと思っていた都の外壁と、その向こうに一回り大きな壁のようにそびえる山々を見ながら、俺は再び都に入るのだった。

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