合流

 しばらくぶりに都に来ると、やはりその活気に気圧される。前に来たときと同様、人数自体もそうだが、種族の数が街とは段違いだ。街だとドワーフやマリート、獣人がせいぜいだが、リザードマンもいるし、今回は普通の人間の倍はあろうかと言う身長の人がいたので、カミロに聞いてみたら巨人族だった。都でも見かけるのは珍しいそうだが、別におかしい話でもないらしい。

 エルフは街でも都でも見かけないが、これはリディさんが言っていたように、魔力を摂取する必要があるので、魔力の豊富なところ以外にはあまり行かないからだ。


 そんな人々が道を行き交っている。他所の大都市でどうなのかは知らないが、この都では種族が何かは気にされない。宿なんかでは、椅子やベッドの都合があるから多少は考慮されるだろうが、逆に言えばそれくらいなもので、少なくとも往来をはばかるような状況では全く無い。

 技術的な面ではともかく、そんなところはこの世界では随分と進歩があるように俺には思えるのだった。


 都の大通りを通り抜けて、外壁より一回り小さい壁にある門に向かっていく。この壁は最初にこの都が出来た時の外壁を補強したものらしい。街の方にある壁と似たようなものか。街の方にある柵が壁になると都に近くはなるようには思う。

 門番にカミロがおそらくエイムール家出入りの証を見せるとあっさり通され、石畳に舗装された都の内街を荷馬車が行く。ここに来るとさっきまでの喧騒は嘘のように無くなっているが、それでも活気が無いわけではない。静かなりの活気というものがある。ゆっくりと街中を荷馬車は進んで行き、やがてテントの並んだ広場に到着した。なるほどここが駐屯地か。ここに集められた兵士たちはずっとここにいるわけじゃないからな。


「それじゃあ、俺はここまでだ。こいつを持っていくといい。」

 俺を降ろしたカミロが紙を出しながら言う。ざっと見ると今回の討伐に従軍する鍛冶屋であって、エイムール家が招聘したという証明みたいなものが書かれている。これを受付かなにかに見せればいいのか。

「ありがとうな、助かったぜ。」

「いいってことよ。」

 俺とカミロは手を振って別れた。ここからはマリウスがいるとは言え、別に軍師でもないからつきっきりではない。輜重隊と一緒なのだろうから、その面々とは仲良くしておきたいものだな。

 駐屯地の衛兵にカミロから貰った書類を見せる。衛兵は受け取った書類に目を走らせると、近場の兵士を呼んだ。

「ここで少しお待ち下さい。」

 呼ばれた兵士は俺にそう言った。やけに畏まっているが、多分エイムール家直々の招聘であると言うのが効いてしまっているようには思う。見た目どう見ても街のオッさんのはずなんだけどな。待てと言った兵士はそのまま走り去っていく。後には衛兵と俺が取り残された。


「貴方も今回の討伐隊には参加するんですか?」

「ええ。補給部隊の護衛としてついていくことになっています。」

 若い衛兵はやや緊張した面持ちで俺の質問に答える。俺も何気なく聞いてしまったが、こう言うのってあんまり答えちゃいけないんじゃなかろうか。新兵なんだろうなぁ。話しはじめてしまったから、このまま話すか。

「なるほど。書類にもあったと思いますが、私は補給部隊で皆さんの武器や防具を修理することになったエイゾウと申します。」

 護衛の人なら顔を合わせる機会も多いだろう。俺は自己紹介をしておいた。

「私はデルモットと言います。お見知りおきを。」

 デルモットさんは優雅な仕草で一礼した。どっかの貴族の次男坊か三男坊、ということなのだろう。これで名をあげられるといいな。


 その後もちょくちょく取り留めもないような話をした。街のオッさんに見えるが、なんかそこそこ身分の人かと思ったらしい。職人でも貴族お抱えだったりすると、爵位こそないにせよ、なかなかの身分だったりはするらしいからなぁ。俺はお抱えと言うよりは、ただの御用達と言うか、納入業者くらいだと思っているので関係ないし、くれると言っても身分はいらない。色々なしがらみにかかずらうのが面倒くさい。その手間暇で新しい武器なんかを作っていたいのだ。

 マリウスはここで兵士たちと寝食を共にしているらしい。「私もかつては諸君と同じ一兵卒だった」と言うのが酔った時の口癖だ、とデルモットさんは笑っていた。この様子なら人心掌握は上手くいってそうだな。


 ややあって、「待て」と言った兵士が戻ってきた。

「討伐隊隊長が会いたいとおっしゃっております。」

「ああ、じゃあお伺いいたします。」

 俺は自分の方から向かうことにした。伯爵閣下がこんな駐屯地の入口に出迎えとか、どんな鍛冶屋だよって話でしかないからな。ただ、場所は分からないので、俺は案内を頼んで、兵士の人についていく。

 ついていった先にあったのは、他よりも豪華な天幕だ。

「隊長、お連れしました。」

「入ってもらえ。」

「かしこまりました。どうぞ。」

 もはや懐かしい感じもする声がして、兵士さんに促されて、俺は天幕の中に入った。

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