後始末
「閣下、お庭を
マリウスが侯爵に頭を下げる。この辺りは土だから入れ替えなんかは簡単だろうが、それで終わる話でもないだろうからな。だが、侯爵は怒ったりはせず、このような陰惨な場であるにも関わらず、笑って言った。
「いや、気にせずとも良い。いやはや、素晴らしい太刀筋で”賊”を討ち果たすものだな、卿。」
今、マリウスを「殿」ではなく、「卿」と呼んだな。つまり、これは侯爵がマリウスを伯爵と認めたということだ。そして、カレルを”賊”と言ったということは、侯爵としては、彼はもうエイムール家の一員から外れたのだ。
「しかし、当家の恥をお見せすることになってしまいました。今後何かございましたら、なんなりと。」
「うむ。そこまで言うなら覚えておこう。おい、そこの二人。」
再び頭を下げるマリウスに侯爵は頷き、カレルの連れてきた二人に声をかける。
「は、はい。」
「な、なな何でしょう。」
二人は起きたことに頭が全く追いついていないようだ。ある程度予想してた俺達と違って、向こうは完全に想定外だろうからな。
「ここで起きたことは他言無用である。もし漏らした場合は……わかっているな?」
えらくドスの聞いた声で脅す侯爵。予想に違わず、二人は震えながらガクガクと頷いている。可哀想に。
「よし。おい、誰か!」
侯爵は使用人を呼んで、二人にはいち早く引き取ってもらった。二人にとってもその方がありがたいだろう。俺達も中庭を離れて、元いた部屋に戻る。後は侯爵家の使用人が片付けるらしい。
その場に置き去りになるカレルを、マリウスが一瞬だけ、悲しそうな目で見ていたのが印象的だった。
部屋に戻ると、今後の方針についての打ち合わせを侯爵とマリウスが始める。俺達は席を外しても良かったし、侯爵もそうしたかったようなのだが、マリウスが
「閣下には多くを申し上げることが出来ず、大変心苦しいのですが、彼らには事の顛末の全てを知る権利があるのです。」
と押して、侯爵もそれを認めたため、同席することと相成ってしまった。
まず、マリウスがエイムール家と伯爵の爵位を継承する。これはもう1週間以内にも行うらしい。盛大な式典は無いにせよ、内々で行われる祝宴はあるようなので、家に帰ったらディアナをすぐに送らなきゃな。後でマリウスとカミロと算段しなければ。
そして、カレルの処遇についてだ。遺体は一旦こっそりとエイムール家の墓所に埋葬するが、公式には知慧を身につけ、後々マリウスの補佐をするために、諸国を周ることにしてしまう。これは街の人々の包み隠さない声を得るために、身分は隠して行うので、気遣いや詮索は無用であると諸国には伝えられる。普通、他国でも伯爵家くらいの人間が来たら、それなりのもてなしが必要だが、それはいらないし、スパイではないから安心してくれ、と言うことだ。
これらが簡単にまとめた結論で、エイムール家のゴタゴタはこれで一件落着と言うことになる。
「それでは、よろしくお願いいたします、閣下。」
「ああ。こちらこそ。」
マリウスと侯爵が立ち上がって握手を交わす。まとめれば短いが、時間にすればそこそこあった打ち合わせもこれで終わりだ。やれやれとは思うが、それは顔に出さずに俺も立ち上がる。そこに、侯爵が声をかけてきた。
「ときに、卿のお客人は、剣術の心得がおありなのかな?」
射抜かれるような目でこちらを見ながら聞いてくる。
「いえ、特にはございませんが。」
俺は内心ドキドキしながら答える。終わってホッとしたところでこういうの、ホントやめて欲しい。
「先程、あやつの動きにいち早く反応していたのが、そちらだったのでね。腕に覚えがあるお方かと思い伺った。」
「なるほど……。護身のために多少の剣は振るえますが、剣術と呼べるようなものではとても。」
俺がそう答えると、侯爵の目がスゥッと細められて、威圧感が増す。
「まぁ、そう言うことにしておこう。いずれ機会があれば、お手合わせ願いたいものだ。」
「いえいえ、とてもそんな腕ではございませんので、ご勘弁を……」
俺は冷や汗をかきながら頭を下げる。侯爵はそれを見て、笑いながら部屋を出ていった。
「いやぁ、エイゾウは凄いな。」
侯爵が出ていった後、声をかけてきたのはマリウスである。さっきまでの
「何がだ?」
俺には何が凄かったのか分からない。ただただ恐縮していただけだ。
「最後のあの時、侯爵閣下は相当に威圧してたのに、受け流してただろ?」
「そうなの?」
いや、なんか威圧感あるなぁとは思ってたけど。
「あれは並の人間なら、言葉を発することすら出来ないぞ。」
「隣にいた俺でも結構来たくらいなのに、そんな気配もなく普通に受け答えしてるんだものなぁ。」
マリウスに乗っかって、カミロもぶーぶー言ってくる。あれってそんな凄いことだったの。
「閣下は武でならしたお方でな。
「それはそれは……」
「悪い人ではないから、そこは心配するな。俺もお忍びのお客人で通すよ。」
「そこは本当に頼んだぞ。」
これ以上、面倒くさそうな人に目をつけられてたまるか。俺は心底マリウスの健闘を祈らずにはいられなかった。
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