第3話いつかの風景1-2

翌朝父の所属していた騎士団の団長と名乗る男と部下が数人来た。

母は、私に外で遊ぶように言うと、男達と一緒にテーブルのある部屋に入って行った。


私は、母の事が気になり外に遊びに行ったふりをして裏口から、テーブルのある部屋へ行こうとしたが、テーブルのある部屋の前に部下らしき人がいてあえなく見つかり一緒に遊ぶことになった。


「君がリューク君だね。僕の名前は、サルビアって言うんだ、よろしくね!」


サルビアは、そう言うと私抱き上げ部屋の中にいる母声をかけると、家を出た。


「はーなーせー」


幼い私の抵抗はたかが知れているかもしれないが、それでもジタバタする子どもを抱えながら移動するのには、一苦労するはずなのに、サルビアは何処吹く風のように私を担いで十数分くらいは歩いただろう。


「はなせー」


「まぁまぁ・・・リューク君」


不意にサルビアは足を止めると、肩に担いでいた私をそっと降ろすと、私目の高さまでしゃがみ込んで真剣な表情で話し出した。

私は、目の前のサルビアより母の方が気になっていたが、サルビアのあまりにも真剣な真っ直ぐな視線に動く事が出来なかった。


「・・・・・・・なぁに?」


「リューク君・・・昨日、リューク君のお母さんからお父さんのことについて聞いたと思うけど・・・」


「うん」


「自分勝手になってしまうのだけど・・・・リューク君に一言謝りたいんだ・・・」


サルビアは、自分の中にあるドロッとしたしたものと懸命に対峙し伝えようとする。


「なんでおじちゃんがぼくに謝るの?」


「何でって!・・・・・リューク君。お父さんは今どこにいるの?」


「おじちゃん変なこと聞くね!今お父さんは遠い所に居てまだ帰ってこれないんだよ!だから昨日お母さん泣いてたんだ!・・苦しいよおじちゃん・・」


サルビアは、私を優しく抱きしめると何も言わずに、ただ私の頭を撫でて小さな声で、繰り返しすまないと連呼していた。

幼い私には、その行為の指す意味や昨晩の母の姿が示すものなど解らず、いや解ろうとせず、ただ大人が少し変わった重たい空気になっているのだと感じるようにしていたのかもしれない。


「変なおじちゃん!」


「・・・・・」


「おじちゃん大丈夫?」


「あぁごめんね。リューク君」


「リュークでいいよー!お父さんにもそう呼ばれていたから」


「じゃあリューク。リュークはお父さんについて聞きたいことはあるか?」


「おじちゃん!お父さんの事知ってるの!」


「あぁもちろん!リューク以上に知ってるぞ!」


「ウソだー!ぼくのほうが知ってるよ!」


「そうかな?」


「そうだよ!じゃあお父さんの事どのくらい知っているのか勝負しようよ!」


「よし!」


それから私はサルビアと家を小さく眼下に見下ろせる丘の上で、父の知っている事を互いに言い合った。

サルビアは主に父の騎士としての姿や、父の想いなどを幼い私にも解りやすいように語った。一方で私は私の知らない父の話に興味津々で聞いていたが、サルビアが、私に伝えたかった事を理解していたかと聞かれると殆ど理解していなかったと思う。

ただ印象に残っているのはサルビアの潤んだ瞳と強くハッキリと声にしきりに私に言った、「己の信念を貫けるものになれ」といった、父の言葉かサルビアの言葉だったか解らないけれど、熱く優しく言葉だった。


「おじちゃん!」


「どうした?」


「お母さんのところ戻りたい!」


「わかった!じゃあ乗れ!」


「うん!」


不意に丘の上を流れる風が私の頬を掠めた瞬間何故か母の事を思い出した私は、自然とサルビアに家に帰ると告げていた。

サルビアはそんな私の頭を優しくグリグリと撫でると、背を向けてしゃがんだ。

私はサルビアの背に乗ると、サルビアは立ち上がり、父の話をしながら、ゆっくりと子どもをあやす様に家に向かって歩き出した。


「ねぇねぇおじちゃん」


「うん?」


「お父さんの強いところは?」


「なんだまた聞きたいのか?」


「うん!だってお父さんは、ぼくのヒーローだから!」


「そうだったな・・・・リューク君のお父さんの強いところは、信念を貫き通すってところだね!そのための強さもある。力、心はもちろん体も全部!」


「おじちゃん解らない〜!!」


「大丈夫いつの日か解るよ!あの人の息子なんだから!」


「ええええ〜」


大好きな父の話を聞き、はしゃいだせいか私は、サルビア背中のゆっくりとした振動にいつのまにかサルビアの背中で寝息を立てていた。

そして、気がつくと私は、翌日寝室のベットの上で日の光を浴びていた。


「おはよう!リューク!お父さんから手紙が来て、もうしばらく帰って来れないって!」


「#%$*おはよう」


思い瞼をこすりながら私は、母の微妙な笑みに気がつくこともなく返事を返した。


「リューク!朝ごはんよ!今日はリュークの大好きなやつよ!」


「ほんとう!」


「そうよ!さぁ顔洗ってらっしゃい!」


母のその声にベッドから抜け出した私は、いつものように洗面台に向かった。




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