第2話 いつかの風景1-1
私が産まれた場所は、昔、木々や草花は綺麗に色付き、近くの湖畔を通り吹き抜ける風は、少し湿り気を帯び微かな花の匂いとともに帝国とシュメイシア皇国を隔てる雄大な山々へ抜けて行く自然豊かな国だった。
シュメイシア皇国は帝国との恒久和平を結んでいたが、主な財源が観光における外貨の獲得だったために、基本的全ての国の者を受け入れていた。
そんなシュメイア皇国の騎士の家系に私は産まれた。
「お母さんお父さんは?」
いつものように友人と遊び終え帰宅した私は、真っ先に母の元へ向かった。
幼い頃の私は父にべったりだった。私にとって父は強さの象徴で、正義の味方そのものだった。
「リュークはお父さん大好きなのね」
「うん!だってこの間の試合だって帝国の人に負けてなかった!」
「そうねお父さん強いもんね!」
「うん!」
幼い私は、父のことに関して褒められるのが自分の事のように嬉しかった。だから、この時の母の辛そうな表情に気がつく事なく、素直に喜んだ。
「リューク、そろそろお父さん戻って来るから、お夕食の準備手伝ってね」
「うん」
夕食の支度中母は、何度か手を止めては、私に視線を向けてきた。私はそれに気がつくと笑顔で、時には手を振って応えた。
普段の母なら手を振って返してくれるのもをその時は、微笑むだけでどこか寂しそうだった。
しかし私は、しばらくぶりに帰って来る父に鼓動が高鳴り、気にもそんな母気にすることは無かった。
支度を終え父の帰宅を待つ間唐突に母が、私に言い聞かせるように言葉を噛み砕いながら話した。
「リューク・・・」
そう母が私の名前を呼ぶと何かに誘われたかのように、ローソクの火が揺れ灯りがほんの少し小さくなった。
「何?」
「あのねリューク、これからお母さん大事なお話しがあるの・・・・」
私といえばそんな母のいつもと違う雰囲気を感じ取ることもなく、もう日が落ちていてローソク薄明かりだけじゃテーブル越しの玄関何て見えるはずが無いのに、私はずっと玄関を見て父の帰宅をワクワクしながら待っていた。
「リューク!」
そんな私に母は声を荒げた。今まで聞いたことのない母の声に戸惑い思わず泣いてしまった。
「ごめんねリューク・・・・」
そう言い私を抱きしめる母の顔から、涙が溢れ出る泉のように流れているの事に気がつき余計に、私も泣いてしまった。
「リューク、あのねお父さんはね・・・・・もう・・かえ・・・・帰って来ないの」
どれくらいかわからないが、しばらく二人で泣き腫らした後母は、ゆっくりとクシャクシャになった顔で、私に父がもう帰らぬ人となった事を告げた。
幼い私はその意味を理解できなかったが、消えたロウソクの火の代わりに窓から差し込む、月の光が綺麗だったのはよく覚えている。
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