塵と消えども
@THT
第1話 プロローグ
深い霧が立ち込める甲板に過ぎ去り日に想いを馳せているかのように、愁いを帯びた顔で佇む老人がいる。
そんな老人の前に軍服に身を包んだ男達が整列をし、老人に視線を集めている。
「諸君」
老人は、自身集まる期待や羨望の視線に応えるように、ゆっくりと眼前にいる100数十人の男達に向かって静かに語り出した。
「これから行われる最期の戦いに勝てば晴れて君達は、君達を待つ家族の元に帰れるであろう」
老人のゆっくりとけれど力強い声が、霧の中に溶けて男達の内から言い表すことが出来ない不思議な高揚感を高めていく。
「諸君等は存じていると思うが、今一度言おう諸君等は、我が帝国に敗れ罪人として収監され、家族の自由の対価として、我が帝国の軍門に下った言わば奴隷軍人である。
その期限は我が帝国が勝利するまでで、それまで一切命令の拒否は許されず、命を差し出せと命ぜられれば差し出さなければならない。
そんななか、我が部隊に出された命令は、未だ抵抗を続けている連合国家の最期の砦であるイーネ島に潜入し、これを無力化する事である!
帝国は我々の戦力を過大評価する傾向にあるらしい・・・だが、戦いが終わった後諸君等全員とまた一杯の酒を酌み交わそう!
そして、晴れて帝国の英雄となり家族の元に戻ろうではないか!」
老人の声に反応するようにドンドンと何か熱のようなものが膨れ上がっていく。
「だから英雄たる諸君等に謝っておきたい事と聞いて欲しい事がある・・・・・」
老人のその一言に呼応するかのように、霧がゆっくり晴れて行く。
「いつか諸君等が私に何故この部隊にいるのかそして、何故帝国の為に戦っているかそう聞いたことがあっただろう・・・・・その時言わなかった答えを言おうと思う・・・ありがとう」
老人の問いに男性達は黙って老人に強い意志の篭った視線を返した。
「長くなるから、崩してくれ。ッフ」
老人の問いに男性達は再度姿勢を直した。
「あれは・・・」
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