第17話 下着売り場

 俺は、彩について行くことにした。

 だが、艶めかしいパンティやブラジャーが飾ってあるところは、胸がドキドキしてくる。

 店員からはどう見えているのだろう。

 彩は、ストッキングのコーナーで、レジを済ませると、

「すいません、着替えてきますので、待っていて下さい」

 と、言って洗面所に消えて行った。


 下着売り場の隅にポツンと佇んで居るのは、居たたまれない。

 10分位で彩は出て来た。

「お待たせしました」

 見ると、さっきのストッキングとは別の色のストッキングを穿いている。

 だが、それを言うとスケベな印象を与えてしまいそうで、言い出せない。

「ストッキングの色を変えてみましてがどうですか?」

 彩の方から聞いてきた。

「あ、ああ、いいと思うよ」

 変な事も言えないので、男としてはそれ位しか言いようがない。

「脚が細く見えるらしいんです。見えますか?」

 彩の脚は、そんなものに頼らなくても十分美脚だ。

「もともと、美脚だから、問題ないじゃないか」

「またまた~、杉山さんって、女心を掴むのが、ほんとに上手ですね」

「これ位で掴めるなら、とっくの昔に結婚しているよ」

「杉山さんって自虐志向ですよね。もう少し、前向きになった方がいいと思います」

 21歳の女子大生に諭されてしまった。


「そうかな、自分ではそう思っていないが…」

「でも、鼻の下を伸ばしていないのは、好感が持てます」

「いや、鼻の下は伸ばしていると思うぞ」

「ええっ、そうですか?そうは見えませんけど」

「オヤジの時点で十分そうだよ」

「また自虐志向になりましたね」

「そうだな。ははは」

「うふふ」


「えっと、どうしようかな」

「ここからだと池袋に行ってみませんか」

「池袋?」

「ええ、水族館があるんです」

 ビルの中にある水族館が、リニューアルオープンしたと聞いた事がある。彩は、そこの事を言っているのだろう。

「そうだな、行ってみようか」


 池袋は新宿から直ぐだ。

 池袋にある高いビルを目指して二人で歩く。

「あっ、ここです」

 水族館はメインの高いビルではなく、その横のビルにあるようだ。

 入館料を支払ってはいるが、昔小学校の遠足でみた水族館はかなり暗いイメージがあったが、今の水族館は明るい。

 いろいろな水生生物のパフォーマンスもやっている。

「彩ちゃんは、来た事があるのかい?」

「いえ、初めてです。リニューアルしたと、聞いた時から来てみたかったんです」

 彩は、動物のパフォーマンスに声を上げて喜んでいる。

 こんなところは子供だ。俺も子供が居たら、こんな休日を送っていたかもしれない。

 子供だましと馬鹿にしていたが、俺も結構楽しめた。

 夕方、二人で水族館を出て、新宿に向かう。


「夕食はどうしようか?」

「私が作ります」

「いや、昨日も作って貰ったし、今朝も作って貰ったし、あまり彩ちゃんに負担をかけるのも申し訳ない」

「でも、水族館のお金や昼食の代金を出して貰ったので、それぐらいしないとバチが当たります」

「うーん、どうしようか」

「それに杉山さんは私の料理を美味しいって言ってくれるので、がぜんやる気が出るんです」

「じゃ、お言葉に甘えようかな」

「何か、食べたい物はありますか?」

「彩ちゃんの得意な物でいいよ」

「ちらし寿司が得意なんですけど、時間がかかるので、オムライスにしようかな」

「おっ、いいねぇ。オムライスも久しぶりだな」

「食材もありましたから、特に買って帰るものもないですし」


 家に帰ると彩はエプロンを身に着け、キッチンに立った。

「何か手伝う事はあるかい?」

「いえ、特にないので、座っていて下さい」

 そう言われても、手持ちぶたさだ。

 彩の後ろに行って料理の様子を見てみる。


 するとかなりの手際さで包丁を使っている。

「へー、上手いもんだな」

「えへへ、そうですか。また褒められちゃった」

 卵を割って、ボールに入れると、こちらも手際よくかき混ぜる。

 この子は、どれだけ料理をしてきたのだろう。


「高橋も彩ちゃんの料理を食べた事があるのかい?」

「父はないです。それとお願いですが、父の事はあまり聞かないで下さい」

 彩は、よそよそしげに答えた。

「そうか、悪かった」

「いえ、いいんです」

 高橋とは何か確執があるのかもしれない。


 彩が、出来たオムライスをテーブルに持って来た。

 オムライスだけじゃない。ちゃんと、味噌汁もある。

「やっぱり、味噌汁があるんだ」

「お味噌汁は好きじゃないですか?」

「逆だよ。味噌汁は大好きさ。特に彩ちゃんの作る味噌汁は、本当に美味しいからね」

「えへへ、ありがとうございます」

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