第7話 土曜日の遊園地
「あのー、杉山さん、電話番号を聞いてもいいですか?今日みたいな時、連絡が取れると便利かなーって」
「ああ、いいとも、080-xxxx-xxxxだ」
「ちょっと待って下さい」
彩はスマホを取り出すと、俺の電話番号を登録した。
「掛けてみますね」
俺の携帯に彩からの着信が入る。
「私も登録して下さい」
俺の電話にも彩の番号を登録した。
「ついでに、SNSもお友だち登録していいですか?」
「こんなオジサンと友だち登録してくれるなんて嬉しいな」
「じゃ、いいんですよね」
俺のスマホに彩が友だち登録した事を知らせるメッセージが入った。
同時に何か絵が送られて来た。
「おっ、何か絵が送られて来たぞ」
動物が頭を下げている絵だ。
「その絵は『ありがとうございました』ということを表しているんです」
「へぇー、そうなんだ」
「杉山さんは絵を送ったりしないんですか?」
「しないな。ほとんどが文章のみだ」
「お友だちとかは?」
「俺、友だちいないし」
「すいません、悪い事を聞いてしまって」
「いや、この年になるとみんな家庭があるからね。遊ぶ友だちは自然といなくなるさ」
「休日は、杉山さんは何をしているんですか?」
「うーん、洗濯と掃除、あとは料理とジムだな」
「事務って、会社の事務仕事ですか?」
出たよ、天然ボケ。真剣に言うから可愛いんだけど。
「いや、ジムってトレーニングジムの事だ。会社の事務を家でやる訳なかろう」
「えっー、恥ずかしい。私はてっきり事務作業かと思いました。もう私のおっちょこちょい」
昨日と同じように電車で帰る。
三鷹の駅が近づくと昨日と同じような仕草で、彩は俺に言って来た。
「あのう、明日はお暇ですか?もし良かったら、遊園地に連れて行ってくれませんか?私、まだ遊園地に行った事がないんです。お願いします」
そう言えば、父親とラーメンにも行った事が無いと言っていたが、あの高橋ならそうかもしれない。
「ああ、分かった。時間と場所は?」
「えっと、三鷹の駅のホームで10時でどうですか?」
「了解、駅のホームに10時ね」
「遅くなる時は電話して下さいね。もう番号は教えましたから」
「ああ、必ず電話するよ」
「約束です」
三鷹の駅で彩を見送った時は夜の10時を過ぎていた。
彼女が家に着くときはきっと11時を回るだろう。家の人に迎えに来て貰っていればいいが。
土曜日、昨日かなり待たせた心苦しさから、今日は俺が彩を待ってやろうと思い、約束の10時より早い、9時45分に三鷹の駅のホームに行ってみたが、既に彩は来ていた。
「ごめん、ごめん、今日も待たせたか」
「いえ、いいんです、私も今着いたところですから」
「それじゃ、どこに行こうか?」
「私が案内しますね。前から一度行ってみたかったところがあるので…」
彩と一緒に電車に乗ったが、休日だからか、ふたりして席に座れた。
彩は昨日遅かったからだろうか、席に座ると眠りだし、俺の肩に頭を預けるようにしている。
これがオヤジなら迷惑者だが、美人の女子大生だと至福の時だ。
だが、いつまでもこうしている訳にもいかない。
新宿を過ぎたところで起こす。
「彩ちゃん、どこで降りるんだい?」
「えっ、私眠ってしまったようで、すいません。えっと、水道橋に行きたいと思います」
水道橋なら、途中で乗り換える必要がある。
四ツ谷で降りて総武線に乗り換える。
彼女の行きたかった遊園地というのは、水道橋にあるそれほど大きくない遊園地の事だろう。
俺も行った事はないが、場所ぐらいは知っている。
遊園地に着くとカップルが多いのは仕方ない事だ。
その中で俺だけ歳をとっており、浮いている感じがする。
今日は曇り空で、太陽も出ていないので、肌寒い。彩も昨日の事があるためか、今日は長袖のカーディガンを羽織っている。
「最初はやっぱり、ジェットコースターですよね」
「ええっ、いきなりだな」
「杉山さんって怖いんですか?以外です」
「いや、怖くはないが、最初回転木馬ぐらいからと思っていた」
「えっー、なんか少女趣味」
「そうかなあ。彩ちゃんの方が過激趣味なんじゃないか。今まではどうだった?」
彩はちょっと考える仕草をしたが、
「やっぱり、普通だと思います」
と答えた。
「普通だと思っている人が一番、普通じゃない。人間ってみんな普通だと思っているもんだ」
「うーん、心当たりがありますね」
「その歳で心当たりがあるくらい、そういう人が周りに居たんだ」
「父がそうですもん。『俺は普通だ』と言っていますが、休日も会社に行くのが普通ではないですから」
俺も今日、会社に出勤している高橋の姿を思い出した。
そんな話をしているうちに俺たちの順番になった。
学校が休みでないためか、小さい子の姿はあまりいない。
ジェットコースターは一番後ろの席だったが、後ろの席ほどそれほど怖くないと聞いた事がある。
だが、彩は「キャー」とか言って楽しそうだ。
その姿を見る、こっちはそれで幸せな気分になる。
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