第3話 運命の輪は廻る
第3話 運命の輪は廻る
状況を整理しよう。
「えーと、あなたは……?」
「はい! ルルナ・マルグレートと申します。
「…………」
どうしよう。変な人っぽい。
ベルは一瞬聞かなかった事にして、
一瞬。だがしかし、状況的に見ても爆発して家から助けてくれたのはこの変な人。無視するわけにはいかない。
「あの、弟子……?」
何だか
茶色に近い赤毛はさっぱり肩の上で切り
一番目を
「はい! ミセス・ムーア」
「…………」
「どうかしました?」
「ミセス・ムーア……」
「はい!」
(伯母様……!)
こんな荒野に来て弟子にと言う変な人、伯母の
「……申し訳ないのですが、私はミセス・ムーアではなくて、その、お試しで後を任されては、いるのですけど……」
どこから来たのか知らないが、こんな所まで。
期待に目をキラキラ輝かせて。
(
こんな所まで、期待いっぱいで来たのに、目当ての人はいない。
(どうしよう。……申し訳なくて、見られない)
本当に
何かを言おうとしている気配を感じて、思わず目をぎゅっと
「なるほど。確かに、ミセスじゃなさそうですね! あんまり
「…………」
(何だか、思ってた声と……)
弟子にと言った
「……?」
「どうかしました?」
瞳の綺麗な変な人は、にっこりと。笑った。
「……怒って、ないのですか?」
「え。何で怒るんです?」
キョトンと逆に聞き返されてしまって、ベルは
「私は、ミセス・ムーアじゃないんですよ? せっかくここまで来て、ミセス・ムーアはいなくて」
「ああ。それは、確かに残念でしたけど。でも、あなたが後継ぎなんでしょう?」
「……お試しで」
にんまり。満足そうに目の前の変な人は笑顔になる。
「なら、問題ないですよ!」
「そ、そう?」
問題あると言われてもどうしようもないから、問題ないならそれはありがたいのだけど。
「じゃあ、後継ぎさん。改めて、よろしくお願いします」
「ま、待って! よろしくって、私に弟子入りするって事っ?」
「はい。何か問題ありますか?」
「も、問題だらけです! まず私はお試しですし、弟子なんて」
「ふむ」
「それに、こんな場所ですし、お客様が来るかどうかもわからないので、その、お給金も払えるかどうか……」
「まあ、確かにお客様にここまで来られる方がどれだけいるかは、気になりますね。でも、どっちも大した問題じゃないですよ」
「え」
「まず最初の、あなたがお試し後継ぎの件ですけど、言ったじゃないですか。一目惚れだって。だから、問題ないです。ボクはあなたの弟子になりたいんです」
「ひとっ」
「で、場所の件ですけど。お仕事する時はそこまで出向けば良いでしょう? ただ、これは勘なんですけど……街に行ったら、よっぽど振り切らないと帰れませんよ」
「な、何で?」
「後継ぎさん。そもそもミセス・ムーアの噂知ってます?」
全然知りません。それが顔に出ていたらしく、変な人もとい、ルルナはチッチッチッチと人指し指を立てる。
「都市では上流階級から下町まで、女の子の口にその噂が上らない日はありません。ミセス・ムーアのティーサロンで、女の子は最高の淑女に生まれ変わる。そう言われているんです」
「さ、最高の淑女って……」
無理過ぎる。自分は
「難しそうですよねー。でもそれをやり遂げて噂になるミセス・ムーアはもっと凄いですし」
「無理無理無理です」
「大丈夫ですよー」
「何がっ?」
「だって、あなたはそのミセス・ムーアが後継ぎにって思う人なんですから」
ベルは悟った。
(ダメ。この人、伯母様を
どう考えても無理なものを、そんな事で大丈夫と言い切る姿。もうこれ信仰としか。
「オマケで、お給金の件ですけど。とりあえず住み込み弟子にして貰えれば、後回しで良いです。畑とかあるみたいですし、衣食住あれば」
「それは、まずいと思うけど」
「そうですか?」
「……払えない私が言うのも何だけど、取り決めは最初にきちんとしないと」
「わかりました。じゃあ、住み込みで、期限つきのお試し弟子入りでいかがです?」
何だろう。期限つきのお試し……
「あの、そもそも弟子入りをしないで帰る気は」
「ありません」
キッパリ笑顔で言われた。
「……」
「まあまあ、とりあえず、お掃除してから考えましょう!」
「あ……」
背後を振り返れば、煙は収まったものの、どう見ても掃除が必要な室内が玄関から見てとれる。
「頑張りましょうね、後継ぎさん」
「……ベル」
「はい?」
「ルベル、です」
とりあえず、後継ぎさんはやめてほしい。
「伯母様……ミセス・ムーアからは、ベルって呼ばれてます」
「ベルさん!」
「さんも無しで良いですけど」
「そこは弟子入りなので、さんは外せません」
「わかりました……」
ベルが折れて頷くのを見て、ルルナは機嫌よく腕まくりをする。
「よろしくお願いします。ルルナさん」
「ルルって呼んで下さい。みんなそう呼ぶので!」
「……よろしく、ルル」
からから廻るは
さて紡ぐ糸はどんなおとぎ話になるのだろう?
ミセスムーアのティーサロン 琳谷 陸 @tamaki_riku
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