同年 安利 12歳
距離が離れると、否応なく、心も離れる。
兄が福岡へ旅立ってから、安利は自分の祈りが以前より雑になってきていると感じていた。
良い友達がいるとか、偉い先生に気に入られたとか、楽しそうな手紙が届く。それを読むと、安心すると同時に、くすんだ気持ちもわいてくる。
兄を支える。そう決意したのは私だ。けれど、兄の方では支えられていることを知らない。病気がちだった体が丈夫になったのは、能天気にも、毎朝の素振りのおかげだと思い込んでいる。
それでいい、はずだった。感謝されたくて支えているわけではない。支えたいから支えている。まじりけのない思いで、兄が日田を発つまでは、祈り続けることができた。
今は、ひどく、孤独であった。
兄から感謝されなくても、ほめてもらえなくてもいい。それを望むのはおこがましい、けれど、京にいる豪潮律師を除いて、誰も安利の苦心を知らない。
誰も知らないということが何よりつらかった。もう目をつぶってもたどり着けるほど通い慣れた大超寺への道を歩きながら、安利は孤独に押しつぶされそうになっている。
人の気も知らないで、自分ばかり楽しそうに――と、合掌したまま兄を恨みそうになる気持ちを、安利は必死に押さえる。
だめ。出てきてはいけない。
標をつけられた兄には、呪いも届いてしまう。
念願叶って遊学の機会に恵まれたのだから、思う存分、良い経験をさせてあげたい。
――遊学が終わったら、どうするのだろう。兄は、私はこれからどうなるのだろう。
定められた十九歳まで、残り五年。あと五年間、毎日祈り続ける? それから先は? 祈りの力で寿命を延ばすことができたとして、その先もずっと祈り続けなければならないのだろうか。誰にも知られずに?
そこまでするほど、私は兄を大切に思っているだろうか?
――だめだったら。
安利は閉じた瞼に力をこめて、雑念を追い払おうとする。
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