第258話 呆然

「「「――――」」」


 僕、さくらとウィル、みゃーこは残っていた全ての力を最後の攻撃に注いだため、もう一歩も動けない程には、ほぼ力尽きていた。


 その証拠に、雷虎と化していたみゃーこの身体からバチバチと音を立てて放出されていた雷は一切消え、飛んでいたさくらとウィルはフラフラとしながらも辛うじて地上に降りて来ることが出来ていた。


 そして、僕も剣を持つこともままならないまま地面に膝を着き、ドームの中心に集まっていく3つの攻撃の、その後の行方を固唾を呑んで見守っていた。


「――――」


 闇一閃やみいっせんとはその名の通り、黒い一閃だ。


 純粋な筋力からの膂力、MPが代償の魔力、そして最強の力である剣気、つまり気力。

 それらを混ぜ合わせ一気に放つ一閃は、どれか1つの力だけでは決して生まれない相乗効果が生まれるため、ただ3つの力を込めるのとは訳が違うほど絶大な威力を誇る。


 しかし、3つの力を同時に込めるが故に、剣にはそれ相応の負担が掛かる。

 そのため、剣に性能以上の負担が行き過ぎず壊れないようにするには、自主的に力を込める量に制限を掛けなくてはいけなかったので、今までは最大限の一閃は放てなかった。


 だが、今回使用したのは今までの剣とは格が違う黒剣であり、それはどれだけ力を込めてもお腹を空かせた蛇のように次々と僕の力を丸呑みし、最終的には剣の蓄えられる力の限界よりも先に、僕の注ぎ込める力の限界が来てしまったほどである。

 けれども、言い方を変えれば、僕の限界まで力を込めることが出来たという事になり、それは今まで放てなかった最大限の一閃を放てたと言うことに他ならない。


 そして、黒剣では何の力を込めていないただの斬撃でも真っ黒な斬撃が放たれたように、同じく一閃でも黒い一閃が放たれたのだが、それはただの黒色には留まらず、闇のような深い漆黒だった。


「――――」


 対する、みゃーこの雷獣虎撃らいじゅうこげきは、みゃーこの身体から雷が全て消えていることから推測するに、どうやら身体に纏っていた雷とこれから纏うであろう雷、その二つを合わせて一気に放出する攻撃らしい。

 だが、ただ雷を放出するだけに留まらず、雷獣虎撃という名前に相応しくその放出された膨大な雷はみゃーこを更に大きく上回る巨大な虎の姿をかたどっており、その巨体さからは考えられないスピードで自走してドームの中心へと駆けていた。


 なお、その雷虎が走り去った後の地面は余りの高温から土が熔けてドロドロの液状になっており、通った後の足跡でさえその威力があるのだから、雷虎本体の威力など到底計り知れない。


「――――」


 そして、三つ巴の最後となるはウィルとさくらのペア。この中では一番地力のあるペアなので、出した技が強力なのは当たり前と言えば当たり前なのだが、その当たり前の予想を遥かに超える強力かつ並大抵では無い技を出してきていた。


 通常、魔法は同属性ならまだしも、異なる属性を同時に使用するのは困難を極めると言われている。

 それは何故かと言うと、魔法のコントロールが属性毎によって丸っきり違うからだ。


 簡単に言えば、使用するのが1属性ならただテニスをするだけ。2属性ならテニスに加え、将棋。3属性ともなればテニスと将棋、更に数学の計算と、使う頭脳の場所が全く異なる事を平行して行なうに等しい。

 そして、使用する魔法の難易度で言えば、初級は子どもの遊び程度、中級はそれなりに経験を積んだアマチュア、上級は世界屈指のプロレベルと、求められる実力が変わってくるような感じ、と言えるだろう。


 要するに、上級魔法を3属性同時に使うとなると、テニスと将棋と数学をどれも同時、かつプロレベルで行なうような物と同じなるわけだ。


 この世界ではステータスのおかげそれらが可能となっているが、地球にいる通常の人間なら余りの情報量の多さに頭が焼き切れるか、そもそも思考することさえ不可能なはずだ。実際、地球ではそれらが出来た人を見たことが無いのが何よりの証明だろう。


「――――」


 だが、複数の属性を同時に使用することや複数の魔法を同時に使用すること、それら以上に魔法の難易度を更に別格にする技が存在している。


 それは、複合魔法だ。


 複合魔法とは、複数の属性を掛け合わせて行なう魔法で、例えば火と水で――熱湯、雷と風で――雷を含んだ竜巻、を作る事を言う。


 言葉として聞けば魔法使いなら誰でも簡単に出来そうに思えるが、実のところその難易度の跳ね上がり方は、複数の属性を同時に使うとか上級魔法を同時に使うとか、先ほど出した二つの技術程度では全くお話にならなく、とてもではないが日常の中では例えられないほど複雑な頭の使い方をしなければならない。

 これを状況が目まぐるしく変わる戦いの中で行えるのは、魔法を使う冒険者の中でも一握り中の一握り、選ばれし者だけだろう。


 そして、肝心のさくらとウィルが出した全属性複合魔法・虹・隕石レインボー・メテオに話を戻すが、これは簡単に言えば、全属性を混ぜ合わせた巨大な隕石を放つ魔法であり、この世界でこれほどの大魔法を出せるのは、さくらとウィル以外に誰一人として存在していないはずだ。


「――――」


 虹・隕石の見た目は、七色に輝く虹をそのまま球状にしたようであり、見る分にはとても幻想的なのだが、細かく見てみると一つ一つの色にはそれぞれの属性が乗っていて、赤は地獄の業火のようだったり、黄は不壊不動な土のようになっていたりと、綺麗な見た目とは裏腹に全てを壊すことに特化しているような暴力的な魔法だった。


「――真冬さん、これはさすがに逃げた方が良いです」


 中心に向かう3種類の大攻撃。


 力を使い果たし逃げようにも動く余力も無いため、他人事のようにただ呆然とそれらを眺めていると、久しぶりの声が頭の中に響いた。


「ナビー!動きたくても……動けないんだ」


 普通の声を忘れそうになるぐらい久しぶりのナビーは、尋常ではないぐらいに焦燥感を漂わせている。

 確かに、あの3つがドームの中心でぶつかり爆風がたちまち起これば、いとも簡単に僕たちの身体など塵一つも残さずに吹き飛ばされるだろう。それぐらい危険なのはナビーに言われる前から重々承知ではあった。


「…………ッ!!」


 だが、黒剣を杖代わりにして踏ん張る起点を作りながらどうにか立ち上がろうとしても、力を使い果たした結果、まるで生まれたての子鹿のようにガクガクと身体全身が笑ってしまい、この場に立つことでさえどうしてもままならなかった。


「それでも、どうにかして逃げないと……!!」


 ナビーは僕たちでは到底得られない量の情報をすでに得ているに違いない。


 そして、その膨大な情報の中から計算してはじき出された、例え万全であっても僕たちではどうしようもない危険域に、このドームにいる全員が完全に包み込まれてるのは今までに無いナビーの焦り具合からして明白。


 しかし、力が底を尽きていて立ち上がることは不可能だった。


「――――!!」


 そして、力が空っぽとなりどうにもならない苦しい状況にいるのは皆も同じようで、白虎化が解けいつもの白い猫の姿に戻ったみゃーこ、ぺたんと地面に座り込んでしまったさくらと本来の姿で力を使ったため光の玉にならざるを得ないウィル。


 全員、身の危機を察知していながらもその場を動けずにいた。


「真冬さん……!!」


 ナビーはとても優秀だが、飽くまでもスキル――導く物ナビゲーター


 車に搭載されているナビで目的地は設定出来たとしても、実際に車で走って向かわなければ目的地には絶対に着かないのと同じように、ナビーに何をどうするべきか教えられてそれが頭で理解出来たとしても僕が実行しなければ、あるいは出来なければ意味がまるで無い。


 その僕という名の車は完全にガス欠で、実行は不可能。どうすることも出来ないので、その場に座り尽すしか他に選びようが無かった。


「…………」


 間もなく、闇一閃、雷獣虎撃、虹・隕石と巨大なエネルギーを持った攻撃達は僕たちがいる場所の中心で互いに衝突し合い、自身に内包する力を惜しげもなく爆発させた。


 その威力は、アルフさんが決着に備えて強化してくれた防御ドームでさえも軽々しく吹っ飛ばし、僕たちを飲み込むまでにそう時間は掛からなかった。


「「「「――――ッッ!!!!!」」」」

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スクールカースト最底辺の僕は幼なじみに助けられてばかりの自分を変えるべく異世界に赴く。 unknown。 @llunknownll

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