心の奥①
翌日 午前 悠の病室
悠は今、テレビに向かってリモコンを向け、退屈そうにチャンネルを回し続けている。 本来なら、教育番組を見て勉強をしている時間帯だった。
だけど病み上がりのため真面目に勉強をする気にはなれず、かといって他を見ようとするも気に入る番組がない。
―――はぁ、何かつまらないな。
―――午前中って、何でこんなにも面白くない番組が多いんだろう。
そのようなことを考えている一方で、メグミは勉強の予習を隣で静かに行っていた。 だがその彼女が、何かを思い出したのか突然声を上げてくる。
「あ、そうでした! 悠くん!」
「うん? 何?」
珍しく慌てた表情を見せるメグミに、悠は横目で見ながら尋ねかけた。
「悠くんに会いたいという方が、一人おられるのですが」
「僕に会いたい?」
「はい」
―――・・・誰だろう?
―――・・・こんな時に。
今は精神状態が完全にいいとは言えないため、あまり人と会う気にはなれずどう断ろうかと迷い出す。 だけどそんな悠をよそに、彼女は言葉を続けてきた。
「それで・・・とても急で、申し訳ないのですが。 その方が今日の午後、こちらに来られるみたいなんです」
「え、今日?」
「はい。 昨夜、言われまして・・・。
できれば早めの方がいいということで、こちらで確認しましたら悠くんは今日の午後特に予定が入っていなかったので、思わずOKしてしまいましたが・・・」
「・・・」
「もし悠くんの体調や気分が優れなければ、今からでも断ることはできます。 どうしますか?」
―――うーん、もうそこまで話が進んでいたのか・・・。
―――というか、僕に会いたい人って・・・誰?
そこで悠の頭には、一人の少女が思い浮かぶ。
―――・・・もしかして、リーナお姉さん?
どうしてここで、リーナのことを思い出してしまったのだろうか。 彼女は担当が代わり、もう会うことはないはずなのに。 そもそも、会いたくもないはずなのに。
だけど少しの期待を持ち合わせたまま、メグミに尋ねてみた。
「その、ここへ来る人って誰? どんな人?」
「そうですね・・・。 私の、仕事仲間です」
「仕事仲間・・・」
「はい。 私にとって尊敬できる先輩で、かなり頼りになる方ですよ。 悠くんにも優しく接してくれると思うので、心配することはないと思います」
―――・・・。
―――リーナお姉さんじゃない、か・・・。
正直、リーナとメグミの上下関係は分からない。 だけど“かなり頼りになる方”というワードとリーナの性格が、あまり一致しなかったのだ。
確かに彼女は頼れる存在なのだが、何かが違った。 ここで、今日訪れる者はリーナでないと分かると、どこかがっかりしている自分がいた。
―――どうして、こんな気持ちになるんだよ・・・。
―――もうリーナお姉さんとは、終わったじゃないか・・・。
そこで必死にこの苦しい気持ちを隠し、今の状況に合わせていく。
―――ということは、来る人は僕の知らない人?
―――何でそのような人が、僕に会いに来るんだ?
―――そもそも、僕のことをどこで聞いたんだろう・・・。
色々と疑問が思い浮かぶが、午後に予定がないことは本当なため特に断る理由もなく、メグミのその言葉に小さく頷いた。
「うん、分かったよ。 僕、その人と会ってみる」
「本当ですか? ・・・なら、よかったです」
そう言うとメグミは本当に安心したのか、安堵の表情を見せてきた。 だがその表情はすぐに消え、いつもの真面目なものへと切り替わる。
「ところで悠くん、今手が空いているのですか? なら少し早いですが、勉強の時間にしましょうか」
「え?」
悠は今、勉強をする気にはなれずテレビのチャンネルを回していたのだ。 だがその行為が暇をしていると思われたのか、そう言われてしまった。
その言葉には何も返すことができず、苦笑を返すしかない。
「あ、はは・・・。 ・・・そうだね」
午後
昼食を済ませ、二人はこの時間をくつろいでいた。 悠は飲み物を飲みながらベッドの上で大人しく読書をしており、メグミも椅子に座りながら何か分厚い本を読んでいる。
そんな中――――静かな病室に、ノックの音が響き渡った。
「・・・来たようですね」
メグミは時計を見て13時過ぎていることを確認すると、悠に小さく微笑んで席を立つ。 悠もそれにつられ、机の上に広げられているのを片付け始めた。
本を閉じ、飲み物を飲み干して水筒を整える。 それを終えた時に丁度――――メグミが扉を開けたのか、そこからは優しい表情をした一人の青年が現れた。
「こんにちは、悠くん」
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