報告③
今自分の膝の上に置かれている何冊かの本を、タクミにも見えるよう表へひっくり返した。
「これは、高校学習の参考書です」
「高校生の? 何でそれを、リーナが持っているの?」
「ハルくんの担当が代わってから、すぐに新しい仕事が決まりまして」
事情を話すと、今度は労わるような言葉を綴ってくれる。
「そうなんだ。 立て続けに事が起きて、大変だね」
「そうでもありません。 寧ろ、長い期間空かなくてよかったです。 無駄なことを考えなくて済みますし」
「はは、そっか。 ということは、今のお仕事は家庭教師?」
タクミの鋭い洞察力に感嘆しながらも、小さく頷いた。
「はい。 今担当している子は、丁度テスト期間みたいで。
でも勉強を教えることができる時間は限られているので、大事なところだけをまとめて伝えられるよう・・・今、予習していたところです」
そう言うと、彼はリーナのことを感心するような目で見つつ、苦笑の言葉を漏らす。
「そうだったんだ。 何か僕、邪魔しちゃったかな」
「いえ。 タクミさんがハルくんの話を聞いてくれて、より心が軽くなったような気がします。 だからタクミさんと今出会えたことに、私は感謝していますよ」
「そう言ってくれてありがとう。 でも僕は、何もしていないよ?」
「してくれました。 話を聞いてくれただけでいいんです。 ・・・自分の思いを、口に出せるだけで」
感謝の言葉を口にすると、次は優しく微笑んでくれた。
「・・・何かリーナ、変わったね。 悠くんのことで大変だっただろうに、今ではもう気持ちを切り替え、新しいことに挑戦しようとしている。 ・・・うん、それは素敵なことだよ」
「さっき、タクミさんも仰っていたじゃないですか。 過去を振り返っていても、あまり意味はない。 だったらその時間、前を向いていないと」
「はは」
タクミの言葉を返すようにそう言うと、彼は照れくさそうに小さく笑う。 ここで話に区切りがつくと、今度は改まった表情をしこう尋ねてきた。
「ところでさ、リーナ。 一つ、聞きたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「その・・・。 もし僕が、悠くんと会ってみたいって言ったら・・・リーナは怒る?」
リーナの顔色を窺うように恐る恐るそう問われるが、リーナ本人は特に何も思わず、軽く首を傾げる。
「? 怒りはしませんけど、急にどうしたんですか?」
きっとタクミは、リーナはもう悠と簡単には会えないのに、自分は簡単に会ってしまってもいいのかという罪悪感があって、そう聞いてきたのだろう。
だがそのことには気にも留めていないリーナは素直にそう聞き返すと、タクミは自分の思いを口にしてくれた。
「いや、リーナがそんなにも大切に思う悠くんがどういう子なのか、素直に気になってね。 ほら、担当者でもない人と会っては駄目だとか、そういうルールはないからさ・・・。
もしリーナがよかったら、会ってみたいなぁって」
その言葉を聞くと――――リーナは嬉しそうに笑い、悠を自慢するような口調で彼にこう返した。
「そうですね。 是非、ハルくんと会ってみてください。 ハルくんはとても優しくていい子で、思いやりのある温かい子ですよ」
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