報告②
ロビー
移動を終え、一つのソファーに二人は隣同士で腰をかけ、早速今まで起きたことを説明する。 タクミは相槌を打ちながら、真剣に話を聞いてくれた。
数分かけ一通り全てを話し終えると、彼は軽く俯き同情した声を出す。
「そっか・・・。 そんなことがあったんだね。 今まで、大変だったでしょ」
その言葉に、リーナは首を横に振った。
「いいえ。 これは全て、私のせいなんです。 だから・・・何も、言うことができません」
するとタクミは、あることを躊躇いも見せずに尋ねてくる。
「リーナは、この結果になってよかったと思っているのかい?」
「・・・私、は・・・」
「・・・まぁ、今更ここで悔やんでも過ぎたことはもうどうしようもできないし、意味がないけどね」
「・・・」
その問いにリーナが口ごもってしまうと、鋭い発言を付け足してきた。 流石にそれには返事をすることができず、軽く俯いてこの気まずい状況を何とか耐えるしかない。
だけどその様子を見たタクミは、リーナの心の思いを代弁するようにこう口にした。
「でも悠くんの話を持ち出すとリーナからは笑顔がなくなるっていうことは、その件に対して少しは思い入れがあるのかな」
その言葉を聞いて自分の気持ちを話す覚悟ができたリーナは、姿勢を改めゆっくりと思いを綴っていく。
「・・・はい。 確かにハルくんは、舞ちゃんが亡くなるまでずっと笑顔でいてくれました。 それは私が望んでいたことだし、叶えることができたのでそれに悔いはありません。
・・・だけど一つ、ここで我儘を言ってもいいのなら・・・」
「・・・何?」
「こういう結果になってハルくんと最終的に離れてしまうのなら、最後はもっといい形で終わりたかった。 ・・・それだけです」
リーナの思いを聞き終えたタクミは、少しの間黙り込んでしまった。 だけどもう自分からは何も言うことがなくなり、彼が発する次の言葉を待つ。
そして――――数分をかけ、やっとタクミは口を開き、先程の発言に対しての返事をしていった。
「・・・そっか。 リーナも、ずっと考えていたもんね。 悠くんのために、自分には何ができるのかって。 だけど・・・そんなリーナに、僕はあえてこう言うよ。
こういう結果になってしまったけど、全てが終わったことによってリーナから負担が少しでも減ったのなら・・・僕はこれでよかった、って」
だけどその発言には、リーナは驚かなかった。 その代わり、違うことが頭を過る。
「どうして・・・そんなに私を、気にかけてくれるのですか?
普段のタクミさんはいつも人を笑顔にさせることを目標としているので、私よりもハルくんの方を気にかけそうなのに・・・」
「うん? まぁ、そうだね。 でもシンプルに考えてみてよ。 悠くんとはもう関係を切ってしまったから、今更彼のことを考えても意味がないだろう?
だったら今目の前にいるリーナを、僕は気にかけたい。 それだけだよ」
「それが、本当の理由ですか?」
「え?」
何故自分が今、そのような発言をしてしまったのかリーナは自分でもよく分からなかった。 だけど何も考えず自然と出てしまったその言葉に、後悔などしていない。
その答えを求めるようにタクミのことを見つめていると、彼は苦笑を見せながら口を開いてくる。
「・・・変なところで鋭いな、リーナは。 今言ったのは全て本当のことだよ。 だけどそれは、表向きな理由かな」
「じゃあ、本当の理由って何なんですか?」
するとタクミは、今まで見たことのない暗い表情を一瞬だけ見せてきた。
その顔を見逃さなかったリーナは驚き、今となって“マズいことを聞いてしまったのではないか”と思い訂正しようとする。
だけどリーナが口を開く前に、タクミが説明をし出した。
「・・・リーナには、前に話したことがあると思うんだけど。 僕たちロボットは、負の感情・・・。 つまり悪い感情っていうものは、いらないんだ。
だけどその気持ちは、今のリーナのように心の負担や後悔から生まれることもある」
「もしその悪い気持ちを持ってしまって、博士にでもバレたら・・・」
「・・・そう。 僕たちは、感情というか・・・全ての記憶が消されてしまう」
「ッ・・・」
そこまで言い終えると彼は自分の太ももの上に両肘をつき、普段見せないような神妙な面持ちをして、続きの言葉を吐き出した。
「だから僕は、リーナを気にかけたんだよ。 リーナには、記憶を失ってほしくはないからさ。 悠くんのことで悩んでいた時、僕は本当に心配したんだ。
このまま、悪い心が生まれてしまうんじゃないかって。 だけど今・・・リーナの話を聞いて安心した。 あまり後悔とか、していないみたいだったから。
本当によかったよ」
そう言うと、タクミは本当に心から安堵したような表情を見せる。 だけどこの時、リーナは彼から少し違和感を感じた。
だって今、彼が紡いだ言葉たちは――――まるで“僕の過去に一度そのような悪い出来事があったから、今本当に安心したんだよ”といったような――――言い回しだったのだから。
「リーナはまだ、初めてのお仕事だったもんね。 いい経験になったんじゃないかな。 だから今までのことを踏まえて、これから頑張っていけばいい。
リーナの迷いや努力は、決して無駄にはならないよ。 だから、安心してね」
優しい表情で綴られたその言葉に頷くと、彼は視線をリーナの膝の上に向けた。
「ところで・・・さっきから持っているその資料は、何?」
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