新生活⑤
数時間後 図書室
しばらく図書室で、勉強に没頭していたリーナ。 キリがいいところで顔を上げ、壁にかけられている時計を見た。 時刻は20時を過ぎている。
ロボット自身には時計というものは取り付けられていなく、かつ人間と違い腹時計もないため、大体の時間でも予測することはできない。
勉強に集中していたせいでかなりの時間が経っていたことに気付き、慌てて博士から貰った資料に目を通した。
―――えっと、大和くんの家は・・・。
大和(ヤマト)というのは、今回リーナが担当する高校二年生の男子。 彼の個人情報などは、勉強を開始する前に把握はしておいた。
資料に描かれている大和の家の場所を確認し、この研究所からの距離と移動時間を計算する。
―――早めに着いても、きっと迷惑がかかるだけだよね・・・。
―――5分前くらいに着いていれば、いいかな。
そして時間ギリギリまで予習をした後、念のために数冊の資料を持ち大和の家へと向かった。
20時55分 大和の家の前
腕時計で時間を確認し、手さげバッグの中に入っている資料や教科書も確認する。 そして準備万全な状態で、気を引き締めて家のチャイムを鳴らした。
『・・・はーい』
「こんばんは。 初めまして、依頼されて来ました。 今回大和くんの家庭教師をさせていただきます、リーナです」
『あらぁ! 来てくれたのねぇ。 鍵は開けてあるから、入って』
インターホン越しからは、お母さんのような高くて陽気な声がリーナの耳に届いてくる。 それを合図に、ドアに手をかけ扉を開いた。
すると丁度、玄関へ向かってきている女性の人と対面する。
「こんばんは。 大和の母です。 遅い時間に、どうもありがとうね」
「いえ」
「大和ー! 先生が来てくれたわよー!」
彼の母は、二階に向かって大きな声でそう言葉を投げた。 その数秒後、かすかに『んー・・・』といったような、眠たそうな返事が届いてくる。
それを聞いて、彼女は少し呆れた表情を見せた。
「もう。 大和の部屋、案内しますね」
少し苦笑を交えてそう言い終えた後、二階へと案内してくれた。
「ここです。 大和ー、シャキッとしなさい! ・・・では、よろしくお願いしますね」
部屋の中にいる息子に向かって最後にそう声をかけ、軽く一礼すると母は下の階へと戻ってしまう。 リーナも軽く会釈をし一人になると、大和がいるであろう部屋と向き合った。
―――・・・よし。
―――私も負けないよう、頑張らないとね。
小さく深呼吸をし自分を落ち着かせると、ドアに向かってノックを二回する。
「今回、大和くんの勉強を見させてもらいます、リーナです。 ・・・お邪魔します」
ずっと廊下に立っているのもあれのため、恐る恐る扉を開いた。 すると丁度、机に顔を伏せている一人の少年の姿を発見する。
リーナが一歩部屋の中に足を踏み入れると、その少年は少し顔を上げ目を合わせてきた。
「んー・・・。 ・・・あれ、女の人なんだ。 てっきり男の人が来るのかと思ってた」
今にも眠ってしまいそうな声でそう呟いた後、眠気を少しでも吹き飛ばすよう大きく伸びをする。
大和が敬語でないことから、リーナも距離を縮めようと彼と同じ調子で言葉を返していく。
「大丈夫? 眠いの?」
「あぁ・・・。 さっき帰ってきたばかりなんだよ。 ここ座って」
そう答えながら、自分の隣に置いてある一つの椅子を顎で示した。 その言葉に促されそこに腰を下ろしながら、会話を続けていく。
「遅い時間まで、お疲れ様。 大和くんは何の部活に入っているの?」
「サッカーだよ。 俺のところのサッカー、これでも結構いい結果を残していてさ。 だから部活に力を入れるのは構わないけど、せめてテスト期間だけは練習よしてほしいよな。
朝練もあって夜遅くまでも部活あって、それなのに勉強の成績は落とすなとか、顧問のヤツ厳し過ぎだろ。
こっちは疲れて、授業をちゃんと受けたくても眠気に勝てず、眠っちまうというのに・・・」
愚痴を交えてそう答えた後、大きく溜め息をこぼした。 リーナは大和の入っている部活は予め知っていたものの、話題を広げるためにわざとそう尋ねたのだ。
「そうなんだ。 本当に大変だね。 でも大和くん、それでも成績は落ちたりしていないし、心配することはないと思うよ。 このまま同じ調子でいっても、十分なくらい」
「そうかなぁ? 今回ばかりは授業に全然追い付けなくて、自信ないけど」
「大丈夫。 そこはちゃんと私がサポートするから、安心して」
大和を安心させるよう自信気な表情でそう口にすると、彼は疲れた表情を交えたままだったが小さく笑ってくれた。 すると突然、あることを尋ねてくる。
「つーか、お姉さんいくつ? 見た感じ、俺とあまり変わらないよね?」
「うん、そうだね」
「それで、俺の勉強見れる?」
「もちろん。 勉強は、任せてほしいな」
結構鋭い問いだったが、それでも穏やかな表情のままそう返すと、大和は机に頬杖をついて小さな声で呟いた。
「・・・へぇ。 頭、いいんだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます