新生活④
同時刻 リーナの部屋
悠が勉強を開始している頃、リーナは先程目覚めたため部屋のカーテンを開けた。 そこからは、眩しい程の光が――――あまり届いてこない。
一応外には繋がっているのだが、ロボットのプライベートは秘密にされているのか外部の者からは見えないようになっていた。
だけど太陽の光は少し届くため、リーナは気持ちよく目覚める。 これが普通だから、特に何も感じなかった。
―――昨日は夜遅くまで色々と作業していたから、休むのが遅くなっちゃった。
だがたくさん休んでゆっくり起きたから、充電が満タン。 何だか身体が軽いし、スッキリしている。
思えば、悠を担当するようになってから毎日病院へ通っていたため、一日中休みなど今までなかった。
そのため充電する時間も中途半端に終わっていたが、久しぶりに満タンの感覚を味わうと気持ちがいい。
―――今日は何をしようかな。
空いている時間を有意義に過ごそうと、趣味のものがたくさん入っている棚の一段目を開けた。 するとそこに入っているあるモノに目が留まり、今までのことを思い出す。
―――・・・もう、これを作る意味なくなっちゃったな。
それは、悠のために編んでいたもの。 だがここにあるのは複数の毛糸だけで、編みかけのものや使う道具などは全て彼の病室に置いてきている。
―――完成したものもハルくんの病室にあるけど、どうしよう。
―――メグミさんに頼んで、取ってきてもらおうかな?
そのようなことを思うも、悠のことを思い出すと何故か複雑な心境に陥った。
その感情が自分でもよく分からず困っていると、その迷いを無理矢理打ち消すかのように、ふとこの部屋にはゆったりとしたメロディが聞こえ始める。
「リーナか? 今すぐ私のところへ来なさい」
博士からの連絡だと思いすぐさま受話器をとると、またもやリーナは彼の部屋へ呼び出された。 一度悠のことを思い出すのを止め、気持ちを切り替えて素直にその指示に従った。
博士の部屋
「リーナ、早速今日から新しい仕事だ」
「今日から、ですか?」
部屋へ入ると早々、博士は忙しいのか作業しながら前置きもせずに用件だけを切り出してくる。 すると目線は資料に落としたまま手だけを動かし、リーナをこちらへ来るよう促した。
そしてリーナが博士の隣へ行くと同時に、まとめられた複数のプリントを手渡される。
「さっき、急に入った依頼でな。 今回担当してもらうのは、高校二年生の男子だ」
「高校二年生・・・」
「あぁ。 今が丁度、テスト一週間前みたいでな。 部活と勉強の両立が難しくて今回のテストが不安だから、家庭教師をしてほしいとのことだ。 頼めるか?」
「はい」
そう返事をすると、手元にあるプリントに目を通した。 そこには今回担当する者の情報が、たくさん書かれている。
「期間は今言った通り、テストまでの一週間。 だがこのテスト期間中、彼は部活がずっと遅くまであるそうなんだ。
だから頼まれている時間帯は、部活から帰ってきてからの21時~23時。 この間に、担当してくれ」
「はい」
よくプリントの内容を見てみると、細かくテスト範囲も示されていた。 各教科、何ページから何ページまでといったようなことまで書かれてあり、この情報だけでも結構助かる。
「まだ午前中だし、時間はある。 それまでは図書室へ行って、テスト勉強時に教える内容の予習をしておくといい」
「分かりました。 ありがとうございます」
礼を言うと、なおも忙しくしている博士の邪魔はできず、そそくさとこの場から立ち去った。 新たに任された依頼。
今まで空いていた時間は趣味にあてていたものの、悠の存在を完全に忘れることはなかった。
だがこれからは自分も忙しくなり他のことを考える余裕もないとなると、強制的に思い出すことができなくなる。
―――・・・ハルくんのことは、もう忘れよう。
―――私は今すべきことをこなさなくちゃ。
―――これが・・・私の役目、なんだよね。
気を引き締め直し、プリントを手に持ったままその足で図書室へと向かった。
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