新生活③
数時間後
朝食をとった後、悠はいつも通りに過ごしていた。 読書をしたり、絵を描いたりして趣味の時間にあてたり。 その後は、テレビで教育番組を見ながら勉強したり。
だがどれも、集中して行うことはできなかった。 それは気持ちの問題だから仕方ないと、割り切っているためいいのだが――――
ここで一度することがなくなると、メグミの方へ視線を向ける。 彼女は今、この後にやるのだろう勉強の予習を黙々と続けていた。
本当は彼女に声をかけ一緒にお話したり遊んだりしたかったのだが、仕事の邪魔はできないと思いその気持ちは何とか抑えた。
というより、メグミではなくリーナだったら、こういう難しいことは考えず素直に声をかけることができていたのだろう。 だけど相手がメグミだと、そういう気にはなれなかった。
―――・・・花瓶の様子でも、見に行こう。
そこで先程気になっていたことを晴らそうと、悠はゆっくりと立ち上がる。 そして病室から出て行こうとしたところで、後ろからメグミに呼び止められた。
「悠くん、どこへ行くのですか? 今から、勉強をする予定ですが」
「え?」
突然声をかけられ、驚いたわけではない。 今の発言に、どこか違和感を覚えたため思わず聞き返してしまったのだ。
「あ、うん。 この後勉強ね、分かってる。 でもその前に、水道へ行きたくて」
「水道、ですか? ・・・分かりました。 では、私もお供します」
彼女に不思議がられないようすぐさま返事をし、一緒に病室から出た。 そして一番近くにある、水道へと赴く。 近付くにつれ、見覚えのあるものが次第に見えてきた。
「あ、あった!」
花瓶が無事であることに、何故か安心し頬を緩ませてしまう。 窓際に寄せられている薔薇の入った花瓶を両手で取り、顔の近くまで持ってくる。
枯れてはなく、とても元気に咲いていた。
「綺麗な薔薇ですね。 青色なんて珍しい」
「この花瓶、僕の病室にあったものなんだ」
「そうなんですか? ・・・あぁ、今朝そのようなこと言っていましたね。 見つかってよかったです。 花瓶の水を替えて、病室へ持って帰りましょうか」
「うん!」
花瓶をメグミに手渡すと、早速彼女は水の入れ替え作業を始め出す。 その様子を隣で見ながら、悠は今でも薔薇を見て目を輝かせていた。
「メグミお姉さん、ありがとうね。 この薔薇、僕とても好きなんだ」
「悠くんの、好きな色でもありますからね」
「え?」
優しく微笑みながら、そう放たれた言葉。 そこでまたもや、先程の違和感が生まれてくる。 その疑問を、素直にメグミに尋ねてみた。
「・・・どうして、知っているの?」
「悠くんのことは、色々と知っておりますよ」
「・・・?」
「さぁ、できました。 病室へ戻りましょう」
花瓶を持っている彼女の横に並び、一緒に来た道を戻っていく。 そんな中、悠は考えた。
―――どうして、僕のこと知っているんだろう?
―――年齢とか住所とかそういう個人情報なら伝えられていても、おかしくはないけど・・・。
―――好きなものとか僕の一日の予定とか、普通知っているもの?
そのようなことを思っているとあっという間に病室へ着き、早速メグミは次の予定を指示してくる。
「では早速、勉強しましょうか。 まずは算数からやりましょう」
「はーい」
その言葉を聞いて、悠は勉強の支度を始めた。 どうして今が勉強をする時間帯だと知っていたのか、特別に詮索したりはしなかった。 その理由も特にない。
―――メグミお姉さんは本当、丁寧でいい人だなぁ。
―――だけど、気軽には話しかけられない感じ・・・。
―――常に真面目だから、僕の方も遠慮しちゃうんだよな。
だけど今の悠には、このサバサバ具合が丁度よかったのかもしれない。 今のところ、メグミと一緒にいて負担に思うようなことはなかった。
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