最初の目標④
数時間後
今日はもう寝るだけとなり、今はCDを流しながらこの時間をくつろいでいる。 悠はベッドの上で大人しく読書をしており、リーナはその横で椅子に座り編み物を行っていた。
CDから流れている曲は女性が歌っているバラードでとても美しく、高音が綺麗に響くため聴くだけでも心が動かされる。
そんな中リーナは、音楽を聴きながら今日のことを振り返っていた。
―――・・・今日は結局、何もできなかった・・・。
―――本当にハルくんの心から、舞ちゃんを離れさせることができるのかな。
そして編み物をする手を止め、壁にかかっている時計の方へ目を向ける。
―――・・・こうしている間にも、舞ちゃんの命は刻々と削られているというのに。
「あ、この曲」
「?」
色々と考え事をしていると、悠は突然今流れた曲に反応した。
「確かこの曲、舞ちゃんが好きなヤツだ」
「・・・そうなんだね」
今耳にしているのは、二人の女性が歌っているものだった。
“大丈夫、君は一人じゃないよ” “いつでも私は、傍にいる”
そのようなフレーズが聴こえてくるため、きっと人を励ます曲なのだろう。
リーナは一度、悠が持っている曲の全ての歌詞には目を通していたため、何の曲が流れているのか辿ることができた。
「この曲、いいよね。 明日舞ちゃんに貸そうかな。 そしたら喜んでくれる? ・・・いやその前に、舞ちゃんは音楽機器病室にあるのかな」
「ねぇ、ハルくん」
「うん?」
“言ってもどうせ断られる”と思っていながらも、駄目もとで尋ねてみる。
「ハルくんの好きな曲、かけてもいい?」
「え? まぁ、いいけど・・・」
「ッ、ありがとう!」
まさかOKがくるとは思わず一瞬言葉に詰まってしまいそうになるが、何とか笑顔で礼を言い悠の好きな曲が入っているオレンジ色のケースを手に取った。
他にもこの調子でいけばいいのだが、なかなかそうにはいかない。 今のだけは上手くいったものの、かなり悠は手強かった。
だがそれだけではリーナはめげず、彼の心から一人の少女を離れさせるため、一週間は同じようなことをし続けてみた。
一週間後 夜
時刻は22時前。 今日も普段通り、悠はベッドの上で読書をしていた。
だけど時間がもう遅いせいか、それとも流れている曲が子守歌として聴こえ眠気が誘ってきたのか、悠は眠たそうに口を開く。
「ふぁぁぁ・・・。 ねむ、い・・・」
「ハルくん、もう寝る?」
一度編み物をしていた手を止めそう問うと、悠は時計を見て小さく呟いた。
「あー、もうこんな時間か・・・。 今日は寝ようかな」
「そうしようか」
悠が寝ると同時に病室の電気も消すため、リーナの役目も自然と終わりになる。
悠が机を戻し本を元の場所へ片付けている間、リーナは音楽を止め編み物を片付ける作業に取りかかった。
そして悠がベッドに入ったことを確認すると、優しい表情で言葉を紡ぎ出す。
「ハルくん、今日も一日お疲れ様」
「うん。 お姉さんもお疲れ様」
「ありがとう。 じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
いつも通りの会話を一通り終えると、リーナは自分のバッグを持ち電気を消しに行く。 そして数秒悠のことを見届けると、そっと病室を後にした。
だがこのまますぐには帰らず、気持ちを落ち着かすように病室のドアに背中を預ける。 その状態のまま、大きく深呼吸をした。
―――・・・駄目だ、どうしよう。
―――何も結果を得られないまま、一週間が過ぎてしまった。
―――無理矢理というかかなり強引に、ハルくんから舞ちゃんを離れさせようとしたけど・・・無理だった。
舞の寿命ということもあり、焦りを覚えていくリーナ。 だが今のサイクルをこのまま続けてもいい効果は得られないと思い、違う方法を考え始める。
その時、一人の大人が頭の中を過った。
―――あ・・・博士。
―――・・・博士に、相談してみようかな。
もう自分だけではどうにもできないと思ったリーナは、人に助けを求めようと研究所へ向けて足を踏み出した。
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