再会④
数分後 屋上
目的である場所へ着いた。 リーナは一度車椅子を止め、屋上へと繋がる扉を一人開けに行く。
そんな彼女を黙って後ろから見守っていると、開いた扉からは一気に冷たい風がこちらへ届き、悠の身体を鋭く突き抜けた。 久しぶりに味わう風と、外の空気。
病室に入る隙間風とは比べ物にはならない程、とても美味しく心地のいいものだった。
「ちょっと寒いね」
そう言いながらリーナは悠のもとへ戻り、膝にかけてあった毛布を悠の肩まで上げてくれる。 そしてそのまま、屋上へと踏み出した。
「わぁッ・・・!」
これもまた久しぶりに味わう、太陽の光。 風は冷たいのにもかかわらず太陽は熱く悠を照らしてくれ、それですらも感動してしまう。
一ヶ月室内に閉じこもっただけで、こんなにも感覚が変わるものなのだ。
改めて外の素晴らしさを感じていると、リーナはいつの間にか悠を外の景色が見える端へと移動させていた。
「これは・・・凄いや・・・」
人が落ちないためにフェンスがかかっているものの、その隙間から見える小さな世界に悠は圧倒される。
同時に様々な感動が引き寄せ頭と身体が付いていけなく混乱するも、悠は静かな口調で自分の今の思いを素直に綴っていった。
「高い場所から街を眺めると、こんなにも全てが小さく見えてしまうなんて。 いつもは高い建物ばかりで人は多いし、窮屈にすら感じたこともあった。
だけどこんなにも、世界って小さいんだね。 そう考えると、一人一人が持っている悩みなんて、凄くちっぽけなものにも思える」
悠の隣へ来てしゃがみながら、相槌を打って話を聞いているリーナ。 そんな彼女の存在を身体だけで感じながら、悠はある告白をした。
「あのね、お姉さん。 さっき会った子・・・。 舞ちゃんのことなんだけど」
「うん?」
「僕ね。 ・・・舞ちゃんのこと、好きなんだ」
「好き?」
聞き返してくるリーナに対し小さく頷くと、街を見下ろしたまま静かに言葉を続けていく。
「うん。 僕は、舞ちゃんのことが好き。 というより・・・舞ちゃんが、僕の初恋の人なんだ。 この思いは、昔から変わらない。 本当に、また再会できて嬉しかったんだよ。
・・・突然学校に来なくなっちゃって、寂しくて苦しかったからさ。 でもまた舞ちゃんを見ることができて、感じることができて、僕は一つ分かったことがある。
・・・僕はまだ、舞ちゃんのことが好きなんだ。 今もこうして舞ちゃんのことを考えていると、凄くドキドキする。 それって、まだ好きっていう証拠でしょ?」
ここで悠は初めてリーナの方へ顔を向けるが、彼女は何も返してはこなかった。 だけどそんなことには構わず、悠は今後のことについて口にしていく。
「僕ね、舞ちゃんのためになら頑張りたい。 今の状況だと、舞ちゃんよりも僕の方が、動けない状態なんだ。 そんなのは男として嫌だ。
もっと身体を動かせるようになって、舞ちゃんをもっと笑顔にさせて、一緒に遊びたい。 舞ちゃんも検査とか、色々頑張っているみたいだし。
だから負けないように、僕もリハビリと勉強をたくさん頑張る」
その揺るぎない意志を見せ付けてくれた悠に、リーナは笑顔を向けた。
「人を好きになるって、凄いんだね。 こんなにもハルくんを、変えてしまうんだから」
「はは。 そうだね」
その言葉に笑いながらそう返すと、悠は再び前を向いて優しい表情で口を開く。
「久しぶりに、目標を決めた気がする。 本当は、入院すると決まった時から僕の将来は真っ暗だったんだ。 身体が全然動かなくて、したいこともできやしない。
入院生活も長くなるみたいだし、リハビリは一応はするけども半分は諦めていた。 どうせ、前みたいな生活は送れないんだろうって。
・・・でも、舞ちゃんと出会えたことによってその考えは変わった。 まだ僕は諦めない。 自分のできるところまで、挑戦したい。
・・・目標を決めるって、それだけでも自分の心は支えられるんだね」
言い終えると、悠はリーナに向かって片手を差し出した。 普段は肘から手先までしか動かしてはいないため、腕全体を動かすのは今が初めてと言ってもいい。
慣れつつある痛みに少し顔を歪ませながらも必死に笑顔を作り、彼女に言葉を投げかけた。
「お姉さん。 僕を、立たせて。 早速今から、リハビリの練習だよ」
あまりの悠の頑張りに、リーナはより笑顔になってその手を取る。 そして悠の身体を支えつつ、ゆっくりとその場に立たせてあげた。
「うッ・・・。 いたっ・・・」
「大丈夫? 一度、車椅子に座る?」
「ううん。 平気・・・」
ここで座ってしまえば負けだと思い、何とか踏ん張り今の体勢を保つ。
―――僕の身体って、こんなに重かったっけ・・・。
―――自分の身体を支えるだけで、結構精一杯なんだけど・・・。
かなり酷い痛みに、悠の顔からは笑顔が消え苦痛を表すような表情へとなっていた。 それでも悠は自分の身体にムチを入れ、一歩ずつ歩き出そうとする。
あまりの痛さに、泣きそうだった。 逃げ出しそうだった。 だけどそんな負の感情が込み上げてくるたびに、舞のことを思い出す。
すると自然とそんな悪い感情なんて去っていき、頑張る力だけが残るの繰り返しだった。 だから何とか、悠は今頑張ることができている。
そんな悠を見て、リーナも感心しより悠を支えてあげたいと思った。 二人は今互いに手を取りながら、目標へ向かって歩き進んでいる。
―――僕は、舞ちゃんのために頑張るよ。
―――だから、待っててね。
―――一緒に退院して、また一緒にたくさん遊ぶんだ。
だけど、舞が二人の前に姿を現したことにより、今後の悠とリーナの関係は――――大きく変わることになる。
そのようなことが起きるなんて、今を頑張って生きている悠には知る由もないことだった。
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